・・・右隊入場、著しく疲れ辛うじて歩行す。曹長「七時半なのにどうしたのだろうバナナン大将はまだ来ていない七時半なのにどうしたのだろうバナナン大将は 帰らない。」左隊登場 最労れたり。曹長・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・八時からはじめますから、入場券をあげて置きましょう。何枚あげましょうか。」「そんなら五枚お呉れ。」と四郎が云いました。「五枚ですか。あなた方が二枚にあとの三枚はどなたですか。」と紺三郎が云いました。「兄さんたちだ。」と四郎が答え・・・ 宮沢賢治 「雪渡り」
・・・ これまでも、たとえばプロレタリア美術家は展覧会入場者の職業別統計はとったことがあった。音楽のサークルへ参加して来る若い人々の労働の種類は類別された。しかし、さらにもう一歩踏みこんで、もっと科学的な方法で、一定の労働、その労働によるエネ・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・特別な催しがあるときモスクワのクラブでは入場券がいるのだ。 車寄から劇場そっくりにいくつもの厚い硝子扉が並んでいる。日本女は体じゅうの重みをかけそれを押して入った。バング! ほ、暖い! 外套ぬぎ場があっちとこっちの端にある大きい・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・ そんなに時間もなかったので千世子は入場券を買って居るとわきに居た京子は、 伯父ですの。と云って一人の男の人を引き合わせた。 うすい地のインバネスを被って口元に絶えず堅い影をただよわせて居る人だった。 その伯父と・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
・・・だらだら坂を、もと入場券売場になっていた小さい別棟の窓口へのぼって行った。そしたら、そこはもう使われていず、窓口から内部をのぞいたら板ぎれなどが乱雑につんであった。七年ばかり前、春から夏、秋、冬と、ちょいちょい通っていた頃は、ここの窓口で特・・・ 宮本百合子 「図書館」
・・・全有権者は、この生々しい不安と手にわたされた選挙場への入場票を見くらべて、深い思いにうたれるのである。 中年の家庭婦人は、政治に関心をもつひまさえ無い、といわれた。その暇さえ無いという今日の私たちの食生活の事情、嫁姑の問題などこそ、その・・・ 宮本百合子 「婦人の一票」
・・・十一時ごろ控室まで入って、十一時半傍聴席へ入場して、開会は一時というのだから、この店も自然と繁昌する刻限である。地方から上京して来ている相当の年配の、村の有力者という風采の男が相当多い。背中に大きい縫紋のついた羽織に、うしろ下りの袴姿で、弁・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
・・・待っている人々と彼等との違いは、ただ彼等はちっともそれについて心配していないことと、呑気に立って喋舌っていて、相当頻繁にこそこそと入場券購入許可証とゴム印を捺した紙片をもって来る人を、出口から乗車フォームへ通してやっていることだけである。・・・ 宮本百合子 「みのりを豊かに」
・・・その頃学校を休んでは、大入場に入ってよく芝居を見る。以前にはかなり勤勉な学生であったが、落第して以来、勉強する気頓になくなる。この気持大学を卒るまで続く。夏、北海道及び樺太に旅行。 一九一三年。東大独文科選科二年生。学校にも殆ど出席せず・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
出典:青空文庫