・・・もういちど、というわけは、五年くらい前に、私は「東京八景」という題で私のそれまでの東京生活をいつわらずに書いて発表した事があるからである。しかし、それから五年経ち、大戦の辛苦を嘗めるに及んで、あの「東京八景」だけでは、何か足りないような気が・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・ 東京八景。私は、その短篇を、いつかゆっくり、骨折って書いてみたいと思っていた。十年間の私の東京生活を、その時々の風景に託して書いてみたいと思っていた。私は、ことし三十二歳である。日本の倫理に於ても、この年齢は、既に中年の域にはいりかけ・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・ ことしは、実業之日本社から「東京八景」が出ました。二、三日中に、文芸春秋社から「新ハムレット」が出る筈です。それから、すぐまた砂子屋書房から「晩年」の新版が出るそうです。つづいて筑摩書房から「千代女」が、高梨書店から「信天翁」が出る筈・・・ 太宰治 「私の著作集」
・・・それ故に、連句三十六景のコンチニュイティは容易に暗記が出来るが、レビューの二十八景の順序は到底覚えられそうもないのである。ともかくもこの二つのものの比較は色々の暗示の光を与える。一方では連句的レビューの可能性が示唆され、他方ではまたアメリカ・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・ 近頃熾に東京日日新聞で、日本新八景の投票を募っているが、あれなど、どういう眼目で新八景を選出しようというのか。那須も塩原も、十位の外に洩れまいとして滞留客へまで帳面を廻し、ハガキ百枚、二百枚と寄附して貰い、三井さんが一万枚寄附して下す・・・ 宮本百合子 「夏遠き山」
出典:青空文庫