・・・……ここでも鳴く。「その紺屋だって、あったのは昔ですわ。垣も何にもなくなって、いまは草場でしたわね。」「そうだっけな――実は、あのならびに一人、おなじ小学校の組の友だちが居てね。……八田なにがし……」「そのお飯粒で蛙を釣って遊ん・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・ 二 公使館のあたりを行くその怪獣は八田義延という巡査なり。渠は明治二十七年十二月十日の午後零時をもって某町の交番を発し、一時間交替の巡回の途に就けるなりき。 その歩行や、この巡査には一定の法則ありて存するが・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・「旦那聞いてください、わし忌ま忌ましくなんねいことがあっですよ、あの八田の吉兵エですがね、先月中あなた、山刈と草刈と三丁宛、吟味して打ってくれちもんですから、こっちゃあなた充分に骨を折って仕上げた処、旦那まア聞いて下さい其の吉兵エが一昨・・・ 伊藤左千夫 「姪子」
・・・来会者は井上、元良、中島、狩野、姉崎、常盤、中島、戸川、茨木、八田、大島、宮森、得能、紀平の諸氏であったという。これらの中の一番若い人でも大学生から見ると先生だったのであるから、こういう出来事はすべて別世界のことであって、わたくしたちには知・・・ 和辻哲郎 「初めて西田幾多郎の名を聞いたころ」
出典:青空文庫