・・・ 元来、作者と評者と読者の関係は、例えば正三角形の各頂点の位置にあるものだと思われるが、(△の如き位置に、各々外を向いて坐っていたのでは話にもならないが、各々内側に向い合って腰を掛け、作者は語り、読者は聞き、評者は、或いは作者の話に相槌・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・まっすぐに突きだす途中で腕を内側に半廻転ほどひねったなら更に四倍くらいの効力があるということをも知った。腕が螺旋のように相手の肉体へきりきり食いいるというわけであった。 つぎの一年は家の裏手にあたる国分寺跡の松林の中で修行をした。人の形・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・従って、伊吹山は、この区域の東の境の内側にはいっているが、それから東へ行くと降雨日数がずっと減る事になるわけである。 何ゆえにこのような区域に、特に降水が多いかという理由について、筒井氏の説を引用すると、冬季日本海沿岸に多量の降雨をもた・・・ 寺田寅彦 「伊吹山の句について」
・・・垣根ただ一重の内側の緑野は、自分らとは生涯なんの因縁もない別の世界のような気がする。しかしもしかこれで、何かの回り合わせで、自分でゴルフをやり始めたら、また現在とはよほどちがった気持ちで、この緑の草原が見直されることであろう。 ゴルフ場・・・ 寺田寅彦 「軽井沢」
・・・鉄の門の内側は広大な熊本煙草専売局工場の構内がみえ、時計台のある中央の建物へつづく砂利道は、まだつよい夏のひざしにくるめいていて、左右には赤煉瓦の建物がいくつとなく胸を反らしている。―― いつものように三吉は、熊本城の石垣に沿うてながい・・・ 徳永直 「白い道」
・・・窓の戸はその内側が鏡になっていて、羽目の高い処に小さな縁起棚が設けてある。壁際につッた別の棚には化粧道具や絵葉書、人形などが置かれ、一輪ざしの花瓶には花がさしてある。わたくしは円タクの窓にもしばしば同じような花のさしてあるのを思い合せ、こう・・・ 永井荷風 「寺じまの記」
・・・此処にはそれを廻る玉垣の内側が他のものとは違って、悉く廻廊の体をなし、霊廟の方から見下すとその間に釣燈籠を下げた漆塗の柱の数がいかにも粛々として整列している。霊廟そのものもまた平地と等しくその床に二段の高低がつけてあるので、もしこれを第三の・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・鋲の輪の内側は四寸ばかりの円を画して匠人の巧を尽したる唐草が彫り付けてある。模様があまり細か過ぎるので一寸見ると只不規則の漣れんいが、肌に答えぬ程の微風に、数え難き皺を寄する如くである。花か蔦か或は葉か、所々が劇しく光線を反射して余所よりも・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・窓の内側は厚き戸帳が垂れて昼もほの暗い。窓に対する壁は漆喰も塗らぬ丸裸の石で隣りの室とは世界滅却の日に至るまで動かぬ仕切りが設けられている。ただその真中の六畳ばかりの場所は冴えぬ色のタペストリで蔽われている。地は納戸色、模様は薄き黄で、裸体・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・ 私の足が一足門の外へ出て、一足が内側に残っている時に私の肩を叩いたものがあった。私は飛び上った。「ビックリしなくてもいいよ。俺だよ。どうだったい。面白かったかい。楽しめたかい」そこには蛞蝓が立っていた。「あの女がお前のために、・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
出典:青空文庫