・・・不精なお方だから、私が黙って揃えて置けば、なんだこんなもの、とおっしゃりながらも、心の中ではほっとして着て下さるのだろうが、どうも寸法が特大だから、出来合いのものを買って来ても駄目でしょう。むずかしい。 主人も今朝は、七時ごろに起きて、・・・ 太宰治 「十二月八日」
・・・また私は、五尺六寸五分であるから、出来合いの洋服では、だめなのである。新調するとなると、同時に靴もシャツもその他いろいろの附属品が必要らしいから百円以上は、どうしてもかかるだろうと思われる。私は、衣食住に於いては吝嗇なので、百円以上も投じて・・・ 太宰治 「服装に就いて」
・・・私が演説を頼まれて即席に引受けないのは、足袋屋みたいにちょっと出来合いがないからです。どうか十文の講演をやってくれ、あそこは十一文甲高の講演でなければ困るなどと注文される。そのくらいに私が演説の専門家になっていれば訳はありませんが私の御手際・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・それも広瀬が金の力でゆるしてくれるような出来合いのぜいたくじゃなくって、みんなの人がこれがいいって言ってくれるような上品なぜいたくでなければ、いやなの」それが理由だった。「それに広瀬だって、泰介と同じような人間じゃないの」「条件がわるかった・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・或る作品はまるで触れていない。或る作品は出来合いの党のスローガンをひっぱって来て間に合わせをやっている。帝国主義の侵略戦争を世界のプロレタリアートの党は全力をもってその国のプロレタリア解放のために有利に展開させなければならない。が、この作品・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・只人間生活の歓び確信というものの、最も鋭い、最もニュアンスに富んだ、最も出来合いでないものの感じ得る陰翳――それによって明暗が益生彩を放つところの、動く生命力の発露として、苦痛をも亦愛し得るだけ生活的です。私があなたにあげる手紙の中で、我々・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 読み進んでゆくうちに、読者は到るところで、しっくりはまりこめない凸凹した説明にぶつかったり、そうかと思うと、思わず作者バルザックに対する疑いを喚び覚まされるような大仰な、出来合いの大古典時代めいた形容詞を羅列した文章に足を絡まれる。非・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫