・・・ゆるんで用に立たぬ、しかし、ないよりはましかも知れぬ、という意味のことを述べ、その地図のうちに計るべきところをこまかく図してあるところを見て、筆を求め、その字を写しとってから、コンパスを持ち直してその分数をはかりとり、榻に坐ったまま板縁の地・・・ 太宰治 「地球図」
・・・従って先ず新星が現われて、それからわれわれがそれを発見するという確率は、二つの小さな分数の相乗積であるから、つまりごく小さいもののまだ小さい分数に過ぎない。これに反して毎晩欠かさず空の見張りをしている専門家にとっては、「偶然」はむしろ主に星・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・細い桃色鉛筆で奇怪な分数を約すように同じ文字を消して行くRとR、UとU、KとKと。残った綴字はいくつあるかL、F、H、LFH……ああ 私はH、H! 何と云う暗合内心に深く沈み込んだ私の批難が此処に現れ出よ・・・ 宮本百合子 「海辺小曲(一九二三年二月――)」
・・・ 最初は算術の時間で、仮分数を帯分数に直した分子の数を訊かれた時に黙っていると、「そうれ見よ。お前はさっきから窓ばかり眺めていたのだ。」と教師に睨まれた。 二度目の時は習字の時間である。その時の吉の草紙の上には、字が一字も見あた・・・ 横光利一 「笑われた子」
出典:青空文庫