・・・そうしてすべてこれらの混乱の渦中にあって、今や我々の多くはその心内において自己分裂のいたましき悲劇に際会しているのである。思想の中心を失っているのである。 自己主張的傾向が、数年前我々がその新しき思索的生活を始めた当初からして、一方それ・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・ ことに、このたびの震災は、さらに文筆業者の生活に分裂を来たし脅威することゝなった。出版圏内の限られたことと、この際、衆俗の意嚮と趣味を無視することのできない資本主義から、ます/\作品の商品化をよぎなくするものがあるのを考えるからである・・・ 小川未明 「正に芸術の試煉期」
・・・当時の仏教は倶舎、律、真言、法相、三論、華厳、浄土、禅等と、八宗、九宗に分裂して各々自宗を最勝でありと自賛して、互いに相排擠していた。新しく、とらわれずに真理を求めようとする年少の求道者日蓮にとってはそのいずれをとって宗とすべきか途方に暮れ・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ 処女は処女としての憧憬と悩みのままに、妻や、母は家庭や、育児の務めや、煩いの中に、職業婦人は生活の分裂と塵労とのうちに、生活を噛みしめ、耐え忍びよりよきを望みつつ、信仰を求めて行くべきである。 信仰を求める誠さえ失わないならば、ど・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・性格分裂者のように見えるかもしれない。時によって「眼の人」になったり、また時によっては「耳の人」になる。そうして「眼の人」と「耳の人」とは、必ずしも矛盾しないとは限らないからである。 六 銀座四丁目から数寄屋・・・ 寺田寅彦 「KからQまで」
・・・植物でも少しいじめないと花実をつけないものが多いし、ぞうり虫パラメキウムなどでもあまり天下泰平だと分裂生殖が終息して死滅するが、汽車にでものせて少しゆさぶってやると復活する。このように、虐待は繁盛のホルモン、災難は生命の醸母であるとすれば、・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・時としては彼の神経は千筋に分裂して、そのすべての末端がいら立って、とても落着いた心持になれなかったのではあるまいか。そういう時に彼は音楽の醸し出す天上界の雰囲気に包まれて、それで始めて心の集中を得たのではあるまいか。 これはただ何の典拠・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・その頃からそろそろ中心が分裂しはじめ正午頃には新潟附近で三つくらいの中心に分れてしまって次第に勢力が衰えて行ったのであった。 この颱風は日本で気象観測始まって以来、器械で数量的に観測されたものの中では最も顕著なものであったのみならず、そ・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・性格が分裂して徹底した没分暁漢になれなくなるから。それはとにかく、自分は今のところでは田舎よりも都会に生活する事を希望し、それを実行している。 田舎の生活を避けたい第一の理由は、田舎の人のあまりに親切な事である。人のする事を冷淡に見放し・・・ 寺田寅彦 「田園雑感」
・・・の分布の問題、リヒテンベルク放電像の不思議な形態の問題、落下する液滴の分裂の問題、金米糖の角の発生の問題、金属単晶のすべり面の発生に関する問題また少しちがった方面ではたとえば河流の分岐の様式や、樹木の枝の配布や、アサリ貝の縞模様の発生などの・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
出典:青空文庫