・・・を見た時もやはり暗い切実な感じを覚えなかった。が今、この工場の中に立って、あの煙を見、あの火を見、そうしてあの響きをきくと、労働者の真生活というような悲壮な思いがおさえがたいまでに起ってくる。彼らの銅のような筋肉を見給え。彼らの勇ましい歌を・・・ 芥川竜之介 「日光小品」
・・・かく私のいうのは、それらの新運動にたずさわった人たちが二三年前に感じたことを、私は今始めて切実に感じたのだということを承認するものである。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~ 新らしい詩の試みが今までに受けた批評について、二つ・・・ 石川啄木 「弓町より」
一 君は僕を誤解している。たしかに君は僕の大部分を解していてくれない。こんどのお手紙も、その友情は身にしみてありがたく拝読した。君が僕に対する切実な友情を露ほども疑わないにもかかわらず、君が僕を解して・・・ 伊藤左千夫 「去年」
・・・省作は長い長い二回の手紙を読み、切実でそうして明快なおとよが心線に触れたのである。 萎れた草花が水を吸い上げて生気を得たごとく、省作は新たなる血潮が全身にみなぎるを覚えて、命が確実になった心持ちがするのである。「失態も糸瓜もない。世・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・ かくの如き疑いは、子供の姿を見て、一層切実なるものがあることを感ずる。 子供は、どの子供も正直だ。そして、やさしみがあり、空想的であり、活々として、愉快であることに、少しも異りがない。 大抵の子供は、こうした状態で小学校へ入る・・・ 小川未明 「人間否定か社会肯定か」
・・・ 私達は実生活の上に於て、その場合、場合に面接して、この世の中というところが、どんなものであるかを切実に知り得たのです。 もう一つ、貧困の時代に、苦しめられたものは、病気の場合であります。手許に、いくらかの金がなくては、医者を迎える・・・ 小川未明 「貧乏線に終始して」
・・・ と、月並みだが、私にとっては切実な言葉を言いに、私の下宿へやって来た時も、私はまず煙草を吸った。それからオイオイ泣き出して、そして、また煙草を吸うために泣きやんだ。 私は彼女とは立ち入った関係はなかったが、会えば唇にだけはふれてい・・・ 織田作之助 「中毒」
・・・私たちは何にしようかと、今夜の相談は切実だが、しかしかえって力がない。いっそ易者に見てもらおうか。 易者はふっと首を動かせた。視線の中へ、自動車がのろのろと徐行して来た。旅館では河豚を出さぬ習慣だから、客はわざわざ料亭まで足を運ぶ、その・・・ 織田作之助 「雪の夜」
・・・それは日蓮の時代よりももっと切実になっているのである。何故なら今日は文化も、経済も国家社会的規模に拡大され、計画されつつあるからである。「大きすぎもせねば、小さすぎもせぬ」声で語るカルチュアの人は尊いであろう。しかしそのために雷霆の如く・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ 自ら問いを持ち、その問いが真摯にして切実なものであるならば、その問いに対する解答の態度が同様なものである書物を好むであろう。まず問いを同じくする書物こそ読者にとって良書なのである。かような良書の中で、自分の問いに、深く、強く、また行き・・・ 倉田百三 「学生と読書」
出典:青空文庫