・・・どうせ不景気な話だから、いっそ景気よく語ってやりましょう、子供のころでおぼえもなし、空想をまじえた創作で語る以上、できるだけおもしろおかしく脚色してやりましょうと、万事「下肥えの代り」に式で喋りました。当人にしかおもしろくないような子供のこ・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・それでもどうしても云うことを聴かない奴は、懲 これがKの、西蔵のお伽噺――恐らくはKの創作であろう――というものであった。話上手のKから聴かされては、この噺は幾度聴かされても彼にはおもしろかった。「何と云って君はジタバタしたって、所・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・食っているくらいのことはたいしたことでもなし、またそれくらいのことは、兄のいかにも自信のあるらしい創作を書いても儲かりそうなものだと思ったのだ。「もっとも今も話したようなわけで、破産騒ぎまでしたあげくだから、取引店の方から帳簿まで監督さ・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・北村君の書いたものは、論文と云っても皆な自分の生活に交渉の深い、一種の創作であった。殊にサイコロジカルな処が、外の人達と違った特色であると思う。『鬼心非鬼心』という文章は、寺の借住居の附近にあった事を、主にして書いたものだ。それから、麻布霞・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・ これらの點より推さばこの傳説作者は、天地人三才の思想を背景にして、之を創作せるものなるべく、漢人殊に儒教が天子に望む所は公明正大、その間に一點の私を插むなからんことなれば、この理想を堯に托してその禪讓をつくり、人道の理想を舜に、勤勉の・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
・・・私のそれから八年間の創作は全部、三島の思想から教えられたものであると言っても過言でない程、三島は私に重大でありました。 八年後、いまは姉にお金をねだることも出来ず、故郷との音信も不通となり、貧しい痩せた一人の作家でしかない私は、先日、や・・・ 太宰治 「老ハイデルベルヒ」
・・・東京の文学者たちにさえ気づかなかった小品を、田舎の、それも本州北端の青森なんかの、中学一年生が見つけ出すなんて事は、まず無い、と井伏さんの創作集が五、六冊も出てからやっと、井伏鱒二という名前を発見したというような「人格者」たちは言うかもしれ・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・しかし映画が単なる複製の技術としてのただの活動写真というだけの境界から脱却して、それ自身の独自な領域を自覚するようになり、創作の新しいミリューとして発見されると同時に行なわれはじめた映画制作の方法がすなわちこのモンタージュである。言わば映画・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・この点においてこの映画の創作者ルーバン・マムーリアンは一つの道楽をしてひとりで悦に入っている感がある。しかしまた一面においては常設館の常顧客であるところの大衆の期待に応ずるような手ごろの材料をかなりに盛りだくさんにあんばいすることに骨を折っ・・・ 寺田寅彦 「音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」」
・・・わたくしは『今戸心中』がその時節を年の暮に取り、『たけくらべ』が残暑の秋を時節にして、各その創作に特別の風趣を添えているのと同じく、『註文帳』の作者が篇中その事件を述ぶるに当って雪の夜を択んだことを最も巧妙なる手段だと思っている。一立斎広重・・・ 永井荷風 「里の今昔」
出典:青空文庫