・・・それは医学を超越する自然の神秘を力説したのである。つまり博士自身の信用の代りに医学の信用を抛棄したのである。 けれども当人の半三郎だけは復活祝賀会へ出席した時さえ、少しも浮いた顔を見せなかった。見せなかったのも勿論、不思議ではない。彼の・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・ただ、私が何故妻のヒステリイを力説するか、それはこの奇怪な現象に対する私自身の説明と、ある関係があるからで、その説明については、いずれ後で詳しく申上る事に致しましょう。 さて、私及私の妻に現れたドッペルゲンゲルの事実は、どんなものかと申・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・またそれを弁護し、力説する評論家がある。彼らは第四階級以外の階級者が発明した文字と、構想と、表現法とをもって、漫然と労働者の生活なるものを描く。彼らは第四階級以外の階級者が発明した論理と、思想と、検察法とをもって、文芸的作品に臨み、労働文芸・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・と大食と食後の早足運動を力説した。 鴎外の日本食論、日本家屋論は有名なものだ。イツだっけか忘れたが、この頃は馬鹿に忙がしいというから、何が忙がしいかと訊くと、毎日々々壁土の分析ばかりしているといった。この研究が即ち日本家屋論の一部であっ・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・そしてそれをすべる面白さを力説しました。ほんとうに面白かったらしいのです。今もその愉快が身体のどこかに残っていると云った話振りなのです。とうとう私も「行って見たいなあ」と云わされました。変な云い方ですがこのなあのあはOの「すべり台面白いぞお・・・ 梶井基次郎 「橡の花」
・・・これを力説強調して、労働者、農民大衆を××せしめ、×××××××××××××。 戦時に於ける、反戦文学の主要力点は、こゝに注がれなければならぬ。 プロレタリアートは、××のために起って来る、経済的、政治的危機を××××「資本主義社会・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・ いつか海洋博物館での通俗講演会でペンクが青島の話をしたとき、かの地がいかに地の利に富むかということを力説し、ここを占有しているドイツは東洋の咽喉を扼しているようなものだという意味を婉曲に匂わせながら聴衆の中に交じっている日本留学生の自・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・私のこの点を力説するのは全くそのためで、何も私を模範になさいという意味ではけっしてないのです。私のようなつまらないものでも、自分で自分が道をつけつつ進み得たという自覚があれば、あなた方から見てその道がいかに下らないにせよ、それはあなたがたの・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・ 民法の改正は明治三十二年頃福沢諭吉が婦人のために力説した議論であった。当時日本の資本主義は小規模ながら興隆期にさしかかっていて、日本の中産階級が経済能力を増してきていた頃、福沢諭吉がいうとおり、今日のブルジョア民法としての民法改正が行・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・小泉氏は、公正な学問的立場からの批判という点を力説しているし、読む人も「公平な」知識を得ようとして読むのでしょうが、客観的に見たとき小泉氏の立場の本質は、資本主義体制の擁護に役立つだけです。社会歴史の展望的な面へ科学的でない批判を集中して、・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
出典:青空文庫