・・・お子さんを殺すのも助けるのもデウスの御思召し一つです。偶像の知ることではありません。もしお子さんが大事ならば、偶像に祈るのはおやめなさい。」 しかし女は古帷子の襟を心もち顋に抑えたなり、驚いたように神父を見ている。神父の怒に満ちた言葉も・・・ 芥川竜之介 「おしの」
・・・の服装を、大体ここに紹介するのも、読者の想像を助ける上において、あるいは幾分の効果があるかも知れない。ペックはこう云っている。「彼の上衣は紫である。そうして腰まで、ボタンがかかっている。ズボンも同じ色で、やはり見た所古くはないらしい。靴下は・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・そういう覚悟を取ることがかえって経過の純粋性を保ち、事件の推移の自然を助けるだろうと信ずるのだ。かかる態度が直接に万が一にも労働階級のためになることがあるかもしれない。中流階級に訴える僕の仕事が労働階級によって利用される結果になるかもしれな・・・ 有島武郎 「片信」
・・・手を取って助けるのに、縋って這うばかりにして、辛うじて頂上へ辿ることが出来た。立処に、無熱池の水は、白き蓮華となって、水盤にふき溢れた。 ――ああ、一口、水がほしい―― 実際、信也氏は、身延山の石段で倒れたと同じ気がした、と云うので・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・迎うるごとく、送るがごとく、窓に燃るがごとく見え初めた妙義の錦葉と、蒼空の雲のちらちらと白いのも、ために、紅、白粉の粧を助けるがごとくであった。 一つ、次の最初の停車場へ着いた時、――下りるものはなかった――私の居た側の、出入り口の窓へ・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・やがて夫の光国が来合わせて助けるというのが、明晩、とあったが、翌晩もそのままで、次第に姫松の声が渇れる。「我が夫いのう、光国どの、助けて給べ。」とばかりで、この武者修業の、足の遅さ。 三晩目に、漸とこさと山の麓へ着いたばかり。 ・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・稲を刈って助けるのは、心あっての事ともそうでないとも見られるが、そのそぶりはなんでもないもののする事とは見られない。 午後もやや同じような調子で過ぎた。兄夫婦は稲の出来ばえにほくほくして、若い手合いのいさくさなどに目は及ばない。暮れがた・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・もちろんかならずしも負ける方を助けるというのではない。私の望むのは少数とともに戦うの意地です。その精神です。それはわれわれのなかにみな欲しい。今日われわれが正義の味方に立つときに、われわれ少数の人が正義のために立つときに、少くともこの夏期学・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・若者が、自分を助けるために、鼻から血を出したことを知ると、ただすまなく思って、幾たびも礼を申しました。「そんなに、お礼をいわれると困ります。私は、良心が、不正を許さないために、戦いましたばかりです。」と、若者は答えました。 二人は、・・・ 小川未明 「あほう鳥の鳴く日」
・・・「べつに、農を助ける人でないようだな。それなら、東京へ出て働いてみないか。いや、みだりに都会へゆけとすすめるのでない。」と、先生は、おっしゃられた。「先生、私はまだそんなことを考えたことがございません。」「いや、それにちがいない・・・ 小川未明 「空晴れて」
出典:青空文庫