・・・そういう存在を今のような歴史は沢山に包括して居りますからね。 私の手紙が第五信までついて居る由。ところで私の今書いているのには第九信と番号が打ってある。十二銭の切手を貼ったのを御覧になりましたか? すると私は一つ自分の番号をとばしてしま・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・坪内先生の生涯を考えるにつけ、様々の教訓があるが、後進に対する包括力のひろさということ、客観性ということの重大さを深く教えられる。抱月が坪内先生の常識的モラルにあっては包括され得なかった点など、ね。面白いと思います。早稲田出の代議士が勲一等・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 一九四六年から四七年にかけて日本全国にストライキの波が高まっていた時期、民主主義文学運動は、労働者階級とともに一般的に勤労者を包括した形をとり、組合の文化部は民主主義文化・文学に対して、ストライキとの連関で、文化動員を主とした。経済的・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・このことは日本出版協会という業者の組織が、その機構の内部に戦時中からの役員を包括していることを我々に思い起させる。日本出版協会が今後民主的出版を守るために果してどのように行動するかは、きびしい監視を必要とする。 三、ラジオの民主化が・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・この委員会は学界の代表者を包括して八千名を超した。 これまで社会問題をあまり扱わなかったN・R・Fさえ時事問題をあつかわざるを得ない情勢におされ、広汎な反ファシズム文化運動の一翼につらなったのであった。が、アンリ・バルビュス、ルイ・アラ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・彼が最後の時期まで博物館長として、上流的高官生活を送ったことは、彼に語らせればゲーテ的包括力であったかもしれないが、歴史の鏡には、やはり文学者としては伝記の研究に赴かざるを得なかった必然として映し出されるのである。 漱石の系統に立って、・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・ 新しい理解での民主主義文学運動のうちに包括されて、その最も推進的部分をなすのが、プロレタリア文学である。半封建的なものとのたたかいが、日本においてどんなに重大であり複雑であるかということは、こんどの憲法一つを見てもわかる。民法が改正さ・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・此の恐るべき文学の包括力が、マルクスをさえも一個の単なる素材となすのみならず、宇宙の廻転さえも、及び他の一切の摂理にまで交渉し得る能力を持っているとするならば、われわれの文学に対する共通の問題は、一体、いかなる所にあるのであろうか。それは、・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・と同義にさえ解せられる所の、人生自然全体を包括した、我々の「対象の世界」の名である。それは我々の感覚に訴えるすべての要素を含むとともに、またその奥に活躍している「生」そのものをも含んでいる。 たとえば私がカサカサした枯れ芝生の上に仰臥し・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
・・・『イリアス』が古代世界を代表し、『神曲』が古代と中世とを包括し、『ファウスト』が古代中世近代の全体を一つの世界にまとめ上げた、というように、大仕掛けな、時代全体のみならず、人類の運命全体を表現しようとする芸術品は、我々の時代においても、現戦・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
出典:青空文庫