・・・そうして得た洞察の成果を最も卑近な最もわかりやすい方法によって表現したように思われる。しかるにこのごろの多数の新進画家は、もう天然などは見なくてもよい、か、あるいはむしろ可成的見ないことにして、あらゆる素人よりもいっそう皮相的に見た物の姿を・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・そうして得た洞察の成果を最も卑近な最も分りやすい方法によって表現したように思われる。然るにこの頃の多数の新進画家は、もう天然などは見なくてもよい、か、あるいはむしろ可成的見ないことにして、あらゆる素人よりも一層皮相的に見た物の姿をかりて、最・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・ただ物理学上の立場より卑近なる考察を試むべし。 厳密なる意味において「物理的孤立系」なるものが存せず、すなわち「万物相関」という見方よりすれば、一つの現象を限定すべき原因条件の数はほとんど無限なるべし。それにかかわらず現に物理学のごとき・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・それだけのきわめて卑近な簡単な一例から考えても、人間の脳の機能に関係する原子分子の一つ一つの役目が、それほど閑散な、あってもなくても済むようなものではないであろうということが想像される。そうだとすると、約二三百の宇宙線が、ある一時間に、ある・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・最も卑近な言葉をもって言い現わせば、恒久なる時空の世界をその具体的なる一断面を捕えて表現せよ、ということである。本体を表現するに現象をもってせよ、潜在的なる容器に顕在的なる物象を盛れというのである。本情といい風情というもまた同じことである。・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・きわめて卑近の一例を引いてみれば、庭園の作り方でも一方では幾何学的の設計図によって草木花卉を配列するのに、他方では天然の山水の姿を身辺に招致しようとする。 この自然観の相違が一方では科学を発達させ、他方では俳句というきわめて特異な詩を発・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・とあまり直接の関係のないあらゆる享楽を味わう時には、たとえその事自身が卑近な感覚的なものでなくてもなんだか一種の不安を感じる場合が多い。いつか田舎から出て来た親戚の老婦人を帝劇へ案内して菊五郎と三津五郎の舞踊を見せた時に、その婦人が「あまり・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・もっとも当人がすでに人間であって相応に物質的嗜欲のあるのは無論だから多少世間と折合って歩調を改める事がないでもないが、まあ大体から云うと自我中心で、極く卑近の意味の道徳から云えばこれほどわがままのものはない、これほど道楽なものはないくらいで・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・ もし文芸院がより多く卑近なる目的を以て、文芸の産出家に対して、個々別々の便宜を、その作物上の評価に応じて、零細にかつ随時に与えようとするならば、余はその効果の比較的少きに反して、その弊害の思ったよりも大いなる事を断言するに憚らぬもので・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・ かく社会が倫理的動物としての吾人に対して人間らしい卑近な徳義を要求してそれで我慢するようになって、完全とか至極とか云う理想上の要求を漸次に撤回してしまった結果はどうなるかと云うと、まず従前から存在していた評価率が自然の間に違ってこなけ・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
出典:青空文庫