・・・そして、そういう孤立的な少数の女性は、一人や二人しんから解り合う友もない程、女性の世界は狭小で未熟である、自分の生れた国の乏しさを歎くより、とかく孤立の程度を自己の卓越の程度と同一視する。侘しい限りだ。 私は、四五年来、何処からかいつか・・・ 宮本百合子 「大切な芽」
・・・ Yは、卓越したパイ焼職人のように、上手に地図と時間表とを麺棒に使い、貧弱な旅費の捏粉を巧に長崎まで延して来たのであった。 宿を出、両側、歩道の幅だけ長方形の石でたたんだ往来を、本興善町へ抜け、或る角を右にとる。町家は、表に細かい格子を・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・ 東郷元帥というひとが、日本の資本主義の発展のために、欠くべからざるものであった過去の戦争において、巨大な功績をのこした人であり、人格的に卓越した将であったことは、近頃種々の刊行物にあらわれている日露戦争の思い出話のうちにも十分に窺える・・・ 宮本百合子 「花のたより」
偉大な作家の生涯の記録とその作品とによって今日までのこされている社会的又芸術的な具体的内容は、常に我々にとって尽きぬ興味の源泉であるが、中でも卓越した少数の世界的作家の制作的生涯というものは、後代、文学運動の上に何かの意味・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・そして、マルコニーのように人類に貢献した発明家や卓越した何人かの音楽家、作家にしてもボッカチオのように市民社会の擡頭期を代表する立派な作家もありました。イタリー人の歴史の中には、たくさん立派な人が出ております。しかし、ファシズムは、主観的な・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・彼は全ソヴェト作家団の再組織に関する委員会の指導者であると同時に、最近、卓越した一つの戯曲を執筆したという報道がある。〔一九三三年十月〕 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・世界に卓越していた婦人数学者ソーニャ・コレフスカヤのストックホルム大学教授としての生涯は、この年代にすでにその早く終った生涯の晩年に近づきつつあった。 さて、ここに、紫色の表紙をもった第三の「女大学」が私たちの目前に登場して来る。福沢諭・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
・・・さっきから幾つかのボタンをはずしていた手袋をぬいで、卓越しに右の平手を出すのである。渡辺は真面目にその手をしっかり握った。手は冷たい。そしてその冷たい手が離れずにいて、暈のできたために一倍大きくなったような目が、じっと渡辺の顔に注がれた。・・・ 森鴎外 「普請中」
出典:青空文庫