・・・これらの作家達は既に文芸復興の声を挙げたと同時に、厳密な意味での評価の規準を我にも人にも否定し去っていたのであったから、古典を読むに当っても当然の結果として読む人々の作家的主観の傾向に準じて、謂わば鑑賞する態度に止まらざるを得ないのであった・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・こういうような成果と欠陥との厳密な自己批判に立って、日本のわれわれもソヴェト同盟によって提唱されている社会主義的リアリズムの問題に関する国際的討論に参加するのであって、現在一部に現れているような理解、即ち、そら見たことか、創作における唯物弁・・・ 宮本百合子 「社会主義リアリズムの問題について」
・・・同志小林の功績は、実にプロレタリア文学運動におけるその如き党派性、その如き科学性の確立のために、決議の作成へまで発展的にしかも飽くまで厳密にわれわれを批判し、鼓舞激励したところにこそあるのである。 貴司は『改造』四月号の「人及び作家とし・・・ 宮本百合子 「前進のために」
・・・にとって、厳密に自己批判されなければならないものだ。二百人もの「青年」を立ちん坊にだけ、背景の代りにだけつかったことは、舞台監督の上手下手をこえて社会主義の社会での芸術というものの本質についての認識不足を示している。こけおどしの舞台効果のた・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・しかし、それなら、われわれは感覚と官能とを厳密に区別しなくてはならなくなる。だが、それは後に述べることとして、さて前に述べた新感覚についての新なるものとは何か。感覚とは純粋客観から触発された感性的認識の質料の表徴であった。そこで、感覚と新感・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・家の中で非常に親しくしている仲であっても、公共の場所では慇懃な態度をとれとか、召使は客人の前では厳密に規律を守らせ、人目のない時にいたわってやれとか、というような公私の区別も、彼にとって算用であった。人を躾けるやり方についても、小さい不正の・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
ロシアの都へ行く旅人は、国境を通る時に旅行券と行李とを厳密に調べられる。作者ヘルマン・バアルも俳優の一行とともに、がらんとした大きな室で自分たちの順番の来るのを待っていた。 霧、煙、ざわざわとした物音、荒々しい叫び声、息の詰まるよ・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
・・・それから先の茸との交渉は厳密に彼自身の体験である。茸狩りを始めた子供にとっては、彼の目ざす茸がどれほどの使用価値や交換価値を持つかは、全然問題でない。彼にはただ「探求に価する物」が与えられた。そうして子供は一切を忘れて、この探求に自己を没入・・・ 和辻哲郎 「茸狩り」
・・・として心と心とを触れ合わせるというような状態になると、個性はその特殊を厳密に保持しながら相互に融け合い、争闘は我の偏狭を脱して人性進化のために愛の光の内に行われる。偉大なる者への屈従は歓喜を以て迎えられ、弱小を征服することは大いなる愛の力を・・・ 和辻哲郎 「自己の肯定と否定と」
・・・この事実は世界の精神潮流から非常に遅れていた最近のわが国の文化についても、厳密に検察せられなくてはならない。―― そこで生活の「真実」、人間の「自然」の問題である。我々はこの「真実」、「自然」を描くと自称する多くの作家を持っている。しか・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫