・・・しかしシナリオ的な叙事詩とはだいぶちがうつもりである。一方では季題や去り嫌いや打ち越しなどに関する連句的制約をある程度まで導入して進行の沈滞を防ぎ楽章的な形式の斉整を保つと同時に、また映画の編集法連結法に関するいろいろの効果的様式を取り入れ・・・ 寺田寅彦 「俳諧瑣談」
・・・ 明治三十年代の吉原には江戸浄瑠璃に見るが如き叙事詩的の一面がなお実在していた。『今戸心中』、『たけくらべ』、『註文帳』の如き諸作はこの叙事詩的の一面を捉え来って描写の功を成したのである。『たけくらべ』第十回の一節はわたくしの所感を証明・・・ 永井荷風 「里の今昔」
・・・ 一九四五年の春、世界をどよもした叙事詩は、その人にとって美でなかったとすれば愕くべきことである。少くとも一人の作家たるわたしは、四五年の四月、五月において、現世紀の主題が、いかにその積極において捕えられたかということについて、腹から諒解し・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・は日本訳もあって、多くの人々に愛読された作品であるが、その横溢的用語、色彩のつよい表現、強くて大きいリズム、叙事詩的形式などは、いかにも彼が南露のコサック生れであることを物語っている。同じ時代に発表されたロシア作家の作品でも、「赤色親衛隊」・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・これから日本語に翻訳されようとしている「教育的叙事詩」という卓抜な文学作品となって現れた。そしてソヴェト社会建設の各分野に働く生ける何万人かのアヴデンコとして。 国内戦時代のたたかいの結果、失明し全身不随となった若いオストロフスキーが、・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・ 六十一歳のセラフィモヴィッチが、壮大な革命的叙事詩「鉄の流れ」を完成した。 一ヵ月たった十ルーブリで田舎の小学教師をしていたこともあるニェヴェーロフが一九二〇年にはタシケントに行って、類の少い佳作「パンの町タシケント」を書いた。・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・は或る面から言えば一種の歴史叙事詩であるが、主観的に藤村は歴史の或る時代の或る役割をヘンスーの土地のかくの如きものも負っているということをたて糸としていることはたしかですね。だから貴方も書いていられるように、客観的に描かれているようで、全篇・・・ 宮本百合子 「「夜明け前」についての私信」
出典:青空文庫