・・・そうして奥さんの一生を台無しにしたのです。あの人をこっぴどくやっつけた男というのは僕です。」「そんなに、つまらない絵でもないでしょう。」老画伯は、急に自信を失った様子で、「私には、いまの新しい人たちの画は、よくわかりませんけど。」 ・・・ 太宰治 「水仙」
・・・一時の、もの珍らしさから騒がれ、そうして一生を台無しにされるだけの事です。和子だって、こわがっているのです。女の子は、平凡に嫁いで、いいお母さんになるのが一ばん立派な生きかたです。お前たちは、和子を利用して、てんでの虚栄心や功名心を満足させ・・・ 太宰治 「千代女」
・・・れども、蚤か、しらみ、或いは疥癬の虫など、竹筒に一ぱい持って来て、さあこれを、お前の背中にぶち撒けてやるぞ、と言われたら、私は身の毛もよだつ思いで、わなわなふるえ、申し上げます、お助け下さい、と烈女も台無し、両手合せて哀願するつもりでござい・・・ 太宰治 「皮膚と心」
・・・これで僕たちの、れいの悪計も台無しになったというわけであった。 僕は、その夜、僕の家へ遊びにやって来た君たちに向って、われらの密計ことごとく破れ果てた事を報告し、謝罪した。けだし、僕たちの策戦たるや、かの吉良邸の絵図面を盗まんとして四十・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
・・・それをいいかげんなほんの一面的なやぶにらみの注解をつけて片付けてしまうのではせっかくのおとぎ話も全く台無しになってしまう。 おとぎ話はおとぎ話でよいのである。 おとぎ話は物理学の教科書と同じく石が上から下へ落ちるという事実を教える。・・・ 寺田寅彦 「さるかに合戦と桃太郎」
・・・あまり感心したために機械油でぬらぬらする階段ですべってころんで白い夏服を台無しにしたことであった。 現代のジャーナリズムは結局やはり近代における印刷術ならびに交通機関の異常な発達の結果として生まれた特異な現象である。同時に反応的にまたこ・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・「豚の中にいては、お前の身が台無しだ。俺はお前が可哀そうでならねえ。奴等もみんな可哀想でならねえ」 このスムールイは、呆れる程ウォツカを飲むが酔っぱらったためしがなかった。水夫長も料理人も、船じゅうのものがこの男の怪力と一種変った気・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫