・・・単なる年代表のようなものはとにかく、いわゆる史実が歴史家の手によって一応合理的な連鎖として記録される場合は結局その歴史家の「創作」と見るほかはない。「日本歴史」というものはどこにも存在しなくて、何某の「日本歴史」というものだけが存在するので・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・なるほど一時は在来の型で抑えられるかも知れないが、どうしたって内容に伴れ添わない形式はいつか爆発しなければならぬと見るのが穏当で合理的な見解であると思う。 元来この型そのものが、何のために存在の権利を持っているかというと、前にもお話した・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・ デカルトといえば、合理主義的哲学の元祖である。しかし彼の『省察録』Meditationes などを読んでも、すぐ気附くことは、その考え方の直感的なことである。単に概念的論理的でない。直感的に訴えるものがあるのである。パスカルの語を・・・ 西田幾多郎 「フランス哲学についての感想」
・・・あれは合理的だと思う。湧水がないので、あのつつみへ漬けた。氷がまだどての陰には浮いているからちょうど摂氏零度ぐらいだろう。十二月にどてのひびを埋めてから水は六分目までたまっていた。今年こそきっといいのだ。あんなひどい旱魃が二年続いたことさえ・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・世界を見わたせば、一つの国が、封建的な性質からより民主化されて来るにつれて、それと歩調を一つにして、婦人の社会生活全面が、変化し、より合理的になって来ている。 世界には、現在のところ、興味ある民主社会の三つの典型が並びあって生活している・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・ 一、民主的な社会で、大切なのは多数の人々の意見であり、多数の人々が自分の意見を出し合って、その結論を互に出発したところよりは高く豊富で合理的なところに育ててゆくのが大事な特長です。 一、輿論というと、むずかしく思えるけれども、誰で・・・ 宮本百合子 「朝の話」
・・・もっと進歩した、もっと合理的な方法でなくては――ただ殺戮、侵略、武力では、国際間の問題は解決しないということを血をもって学んだ。 このたびの大戦の結果は、二十五年以前の第一次世界大戦のときよりも、いっそうまざまざと人間理性の勝利の意味、・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・また、このものは誰かということも、誰も知ることなど出来る筈はない。合理がこれを動かすのか、非合理がこれを動かすのかそれさえ分らぬ。ただ分っていることは、人人は神を信じるか、それとも自分の頭を信じるかという難問のうちの、一つを選ぶ能力に頼るだ・・・ 横光利一 「鵜飼」
・・・という概念を用いて合理的な思惟を勧めている点である。彼はいう、「算用を知れば道理を知る。道理を知れば迷ひなし」。その道理というのは、自然現象の中にあるきまりを意味するとともに、また人間の行為を支配する当為の法則をも意味している。しかもその後・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・我れに取っては最も明白合理なる信念である。その人は笑うべき思想だと言う。公平に見れば水掛け論に過ぎぬ。社会主義が奮然として赤旗を翻す時、帝国主義は冷然として進水式をやっている。電車のただ乗りを発明する人と半農主義者とは同じ米を食っている。身・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫