・・・ 善平は笑いながら、や、しかし綱雄が来たらば、二人で同腹になっておれをやり込めるであろうな。この上なお威張られてはたまらぬ。おれは奥村さんのところへでも逃げて行こうか。これ、後楯がついていると思って、大分強いなと煙管にちょっと背中を突き・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・盗賊が紳商に化けて泊っていた時の話、県庁の役人が漁師と同腹になって不正を働いた一条など、大方はこんな話を問わず語りに話した。中には哀れな話もあった。数年前の夏、二階に泊っていた若い美しい人の妻の、肺で死んだ臨終のさまなど、小説などで読めば陳・・・ 寺田寅彦 「嵐」
・・・旧来の結婚の形式が偽善と心ならぬ犠牲、真実の愛の感情さえ殺すような重しを女にかけることに抗議する心持の上で、この二人は全く同腹の姉妹である。けれども年上であり、成熟した女性であるアンネットの肉体と精神との中には、既に感覚として、自覚される欲・・・ 宮本百合子 「未開の花」
出典:青空文庫