・・・それは一つには僕自身も傲慢に安んじている所から、同類の思いをなしたのかも知れない。けれどもまだその外にも僕はいろいろの原因から、どうも俳人と云うものは案外世渡りの術に長じた奸物らしい気がしていた。「いやに傲慢な男です」などと云う非難は到底受・・・ 芥川竜之介 「飯田蛇笏」
・・・この蟹はある時自分の穴へ、同類の肉を食うために、怪我をした仲間を引きずりこんだ。クロポトキンが相互扶助論の中に、蟹も同類を劬ると云う実例を引いたのはこの蟹である。次男の蟹は小説家になった。勿論小説家のことだから、女に惚れるほかは何もしない。・・・ 芥川竜之介 「猿蟹合戦」
・・・それさ、お前さん、鶏卵と、玉子と同類の頃なんだよ。京千代さんの、鴾さんと、一座で、お前さんおいでなすった……」「ああ、そう……」 夢のように思出した。つれだったという……京千代のお京さんは、もとその小浜屋に芸妓の娘分が三人あった、一・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・早瀬 それでなくッてさえ、掏賊の同類だ、あいずりだと、新聞で囃されて、そこらに、のめのめ居られるものか。長屋は藻ぬけて、静岡へ駈落だ。少し考えた事もあるし、当分引込んでいようと思う。お蔦 遠いわねえ。静岡ッて箱根のもッと先ですか。貴・・・ 泉鏡花 「湯島の境内」
・・・かく言う自分もさよう、同類と信じているのである。 ここに言うホールとは、銀座何丁目の狭い、窮屈な路地にある正宗ホールの事である。 生一本の酒を飲むことの自由自在、孫悟空が雲に乗り霧を起こすがごとき、通力を持っていたもう「富豪」「成功・・・ 国木田独歩 「号外」
・・・大酒飲みに違いない、と私は同類の敏感で、ひとめ見て断じた。顔の皮膚が蒼く荒んで、鼻が赤い。 私は無言で首肯いてベンチから立ち上り、郵便局備附けの硯箱のほうへ行く。貯金通帳と、払戻し用紙それから、ハンコと、三つを示され、そうして、「書いて・・・ 太宰治 「親という二字」
・・・何ひとつ武器を持たぬ繊弱の小禽ながら、自由を確保し、人間界とはまったく別個の小社会を営み、同類相親しみ、欣然日々の貧しい生活を歌い楽しんでいるではないか。思えば、思うほど、犬は不潔だ。犬はいやだ。なんだか自分に似ているところさえあるような気・・・ 太宰治 「畜犬談」
一 永遠の緑 この英国製映画を同類の米国製レビュー映画と比べると一体の感じが随分ちがっている。後者の尖鋭なスマートな刺戟の代りに前者にはどこかやはり古典的な上品な滋味があるような気がする。 この映画の・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(5[#「5」はローマ数字、1-13-25])」
・・・ その他にも大分同類がある。同じ人で静物は甲の仏人、人物は乙の仏人といったように真似の使い分けをしているのもある。 椎塚氏の絵には何時もながら閉口するが、しかしこの人は、別にこれらの絵を人に見せて賞めてもらうために描いているらし・・・ 寺田寅彦 「二科会その他」
・・・惜いかな今の日本の文芸家は、時間からいっても、金銭からいっても、また精神からいっても、同類保存の途を講ずる余裕さえ持ち得ぬほどに貧弱なる孤立者またはイゴイストの寄合である。自己の劃したる檻内に咆哮して、互に噛み合う術は心得ている。一歩でも檻・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
出典:青空文庫