・・・ある日の朝K市の中学校の掲示場の前におおぜいの生徒が集まって掲示板に現われた意外な告知を読んで若い小さな好奇心を動揺させていた。今度文学士何某という人が蓄音機を携えて来県し、きょう午後講堂でその実験と説明をするから生徒一同集合せよというので・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・ひっそり砂利を敷きつめた野天に立つ告知板の黒文字 しらおか 寂しい駅前の光景が柔かく私の心を押した。「白岡ですよ」 婆さんは袋と洋傘とを今度は一ツずつ左右の手に掴み、周章てて席を出たが、振り返り、「あの、私の降りるのここでござん・・・ 宮本百合子 「一隅」
・・・小さい告知板がところどころに建っていて、第×林区、広田兵治など書いてある。その、炭焼きか山番かであろう男が一人いる処は、向う山か、遙かな天城山の奥か。 或る角で振返ったら、いつか背後に眺望が展け、連山の彼方に富士が見えた。頂の雪は白皚々・・・ 宮本百合子 「山峡新春」
・・・省線各駅、町会の告知板に、徳川時代の、十手をもった捕りかたが手に手にふりかざした御用提燈が赤い色で描かれたポスターがはられた。赤い御用提燈に毒々しくスパイ御用心と書かれていた。当時の権力者たちは、自分らでまきおこした大惨禍を、国民が反省し、・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
『文学界』に告知板というところがある。毎号そこにいろいろな作家が短い自由な感想をのせているのであるが、九月号のその雑誌に「新胎」を書かれた舟橋聖一氏も、本月はこの欄に一文をよせておられる。「新胎」を創作するに当って助力を・・・ 宮本百合子 「夜叉のなげき」
出典:青空文庫