・・・特別保護住民だった僕にだれも皆好奇心を持っていましたから、毎日血圧を調べてもらいに、わざわざチャックを呼び寄せるゲエルという硝子会社の社長などもやはりこの部屋へ顔を出したものです。しかし最初の半月ほどの間に一番僕と親しくしたのはやはりあのバ・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・のみならず直孝を呼び寄せると、彼の耳へ口をつけるようにし、「その女の素姓だけは検べておけよ」と小声に彼に命令した。 三 家康の実検をすました話はもちろん井伊の陣屋にも伝わって来ずにはいなかった。古千屋はこの話を・・・ 芥川竜之介 「古千屋」
・・・東京の叔父さん達とも相談した上で、お前を呼び寄せるで。よしか。お母さんの側が一番よからず」 とおげんが言ったが、娘の方では答えなかった。お新の心は母親の言うことよりも、煙草の方にあるらしかった。 お新は母親のためにも煙草を吸いつけて・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・それが友だちと二人で悪漢の銀行破りの現場に虜になって後ろ手に縛られていながら、巧みにナイフを使って火災報知器の導線を短絡させて消防隊を呼び寄せるが、火の手が見えないのでせっかく来た消防が引き上げてしまう。それでもう一ぺん同じように警報を発し・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・思いもかけず、パリにいる姉のブローニャから、彼女をパリへ呼び寄せる一通の手紙を受取った一八九〇年の早春のある日の心持。それらはその苦しさにおいても、ときめきにおいても、恐ろしい忍耐でさえもすべてはポーランドの土と結ばれているものである。その・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・そして、粟を散らしながらツウツウと短い暖味のある声で雌を呼び寄せるのである。 雌を驚かせて、気の毒には思うが、自分には、実に心深い見ものであった。こればかりでなく、新しく籠に入れられ、自分達の巣を定めようとする時にも、雌雄はその態度が異・・・ 宮本百合子 「小鳥」
出典:青空文庫