-
・・・私語くごとき波音、入江の南の端より白き線立て、走りきたり、これに和したり。潮は満ちそめぬ。 この寒き日暮にいつまでか浜に遊ぶぞと呼ぶ声、砂山のかなたより聞こえぬ。童の心は伊豆の火の方にのみ馳せて、この声を聞くものなかりき。帰らずや、帰ら・・・
国木田独歩
「たき火」
-
・・・のごとくすること日々ある日また四老に会す、幽賞雅懐はじめのごとし、眼を閉じて苦吟し句を得て眼を開く、たちまち四老の所在を失す、しらずいずれのところに仙化して去るや、恍として一人みずから佇む時に花香風に和し月光水に浮ぶ、これ子が俳諧の郷なり・・・
正岡子規
「俳人蕪村」