・・・小島君も江戸っ児ですから、啖呵を切ることはうまいようです。しかし小島君の喧嘩をする図などはどうも想像に浮びません。それから又どちらも勉強家です。佐佐木君は二三日前にこゝにいましたが、その間も何とか云うピランデロの芝居やサラア・ベルナアルのメ・・・ 芥川竜之介 「剛才人と柔才人と」
・・・お前にこそ、富樫でも大事な御亭主だろうが、このひろい世間で、あんな男一匹が、という風に、母は啖呵をきった。一刻もうちにはおけない。すぐ二人でどこへでも出て行くがいい。さっさと出て貰おう! そう云った。富樫はあやまって、はつにもあやまらせて、・・・ 宮本百合子 「道灌山」
・・・と云う啖呵文を読売紙上に発表して、三上於菟吉と共に民間ファッショの親玉として名乗りを揚げた。これは却々興味ある一つの出来事だ。直木三十五は持前のきかん気から中間層のインテリゲンチャが、ファッショ化と共に人道主義的驚愕を示し然も自身では右へも・・・ 宮本百合子 「ブルジョア作家のファッショ化に就て」
・・・天皇制を批判したりするものに娘を嫁にやらないなどと、世間のおやじが酔っぱらった時にあぐらをかいていうような啖呵を、文学者としていえるということは日本の過去の社会感覚の中で「自我」がいかに低い内容をもち、いかに封建的であり、隷属的であるかとい・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
・・・ と啖呵をきった笑話がある。 当時の人民層がおもっていた社会と政治感覚のこんな素朴さ。しかし、官員万能であり、時を得た人、成り上がりが幅をきかしても一般には思うにまかせない貧富の差、生活向上をねがう人間の権利に対する機会の不平等などは、・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・わり込んで腰をおろした女の人たちの二人は、守衛さんが云々とそれを楯に動こうとせず、先着の一人が化粧の顔に怒気を浮べて、わたしはひとの席までとっては、よう座りませんからと啖呵を切るようにしたら、守衛も、ここのところは先着の人に坐らして下さいと・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
・・・と、押入った先で啖呵を切ったことが書いてあった。この言葉は短い。けれども、一個の人間として深い絶望のこころを示している。 前線から帰った人から、最後まで残ったのは兵士であって、指揮官は飛行機で疾うの昔に引揚げてしまっていたという話を、戦・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫