・・・術勿論よい、盆栽園芸大によい、歌俳文章大によい、碁でも将棋でもよい、修養を持って始めて味い得べき芸術ならば何でもよい、只其名目を弄んで精神を味ねば駄目と云う迄である、予が殊に茶の湯を挙たのは、茶の湯が善美な歴史を持って居るのと、生活に直接で・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・人間は、善美の理想に向って、克己奮闘する時こそ、進歩も向上も見られるけれど、雷同し、隷属化された時は、自分自身の行くべき道すら見失うものであります。 人生の進路も、生活の形態も、一元的に決定することはできないであろう。故に、一つの主義が・・・ 小川未明 「文化線の低下」
・・・これは絶対的善美なものの得られない現世であらゆるものの価値判断に関係して当てはまる普遍的方則ではあるまいか。それで私は蓄音機をきらう音楽家のピュリタニズムを尊敬すると同時に蓄音機を愛好する素人を軽視する事はどうしてもできない。 蓄音機が・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・ 七 最新の巨大な汽船の客室にはその設備に装飾にあらゆる善美を尽くしたものがあるらしい。外国の絵入り雑誌などによくそれの三色写真などがある。そういう写真をよくよく見ていると、美しいには実に美しいが、何かしら一つ肝・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・ 宇宙のあらゆる善美、人類のあらゆる高貴を感じ得るのは、ただ、私自身の裡に賦与された、よさ、まこと、によってのみなされることではありますまいか。 こころよ、心よ……。私は、恭々しく謹んで、微弱な、唯一の燈火を持運びます。〔一九二・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
出典:青空文庫