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・・・里の名に因みたる、いずれ盛衰記の一条あるべけれど、それは未だ考えず。われ等がこの里の名を聞くや、直ちに耳の底に響き来るは、松風玉を渡るがごとき清水の声なり。夏の水とて、北国によく聞ゆ。 春と冬は水湧かず、椿の花の燃ゆるにも紅を解くばかり・・・
泉鏡花
「一景話題」
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・・・ここに奈耶迦天を祀れるは地の名に因みてしたるにやあらんなど思いつづくるにつけて、竹屋の渡しより待乳山あたりのありさま眼に浮び、同じ川のほとりなり、同じ神の祠なれど、此処と彼処とのおもむきの違えば違うものよなど想いくらべて、そぞろに時を移せし・・・
幸田露伴
「知々夫紀行」