・・・これは帰朝の途上わたくしが土耳古の国旗に敬礼をしたり、西郷隆盛の銅像を称美しなかった事などに起因したのであろう。しかし静に考察すれば芸術家が土耳古の山河風俗を愛惜する事は、敢て異となすには及ばない。ピエール・ロチは欧洲人が多年土耳古を敵視し・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・島田のお家の前の往来に一杯御父上、母上、軍服を着た達治さん、むっつりした隆治さん、国旗を手にした信吉叔父上その他を中心に見送りの男の人達が円く溢れたところをとったものです。あの狭い往来のこちら側からむかい側の軒下まで人でつまっていて、もしバ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・中華人民共和国の新しい国旗の上に輝く一つの大きい星とそれをかこんで輝く四つの小さな星の美しさをよろこぶばかりではなく、日本のごたごたした社会情勢のうちに、やがて次第に輝きをましてゆくべき一つの星と四つの小さな星との文学をその正当な位地づけで・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・あちこちで祝出征の旗が見えるようになってその横丁でも子供対手の駄菓子屋の軒に、いかにも三文菓子屋らしい祝意のあらわしかたで紙でこしらえた子供の万国旗がはりまわされた。そこからも出る人があるのだ。ふだんは工場へでも通っていた若い人であるのだろ・・・ 宮本百合子 「今日の耳目」
・・・軒に国旗がヒラヒラ。 伊豆蜜柑を買おうと八百屋へ行った。雨戸を一枚だけ明けた乾物臭い暗い奥から、汚れた筒っぽ袢纏を着た女房が首を出した。 なるほど天城街道は歩くによい道だ。右は冬枯れの喬木に埋った深い谷。小さい告知板がところどこ・・・ 宮本百合子 「山峡新春」
・・・北京からの日本語放送は、新中国の国旗について説明しました。赤地の左肩に輝く一つの黄色い大きい星に中心をむけて配置されている四つの小さい星は、労働者、農民、小市民、民族資本家をあらわす人民の統一戦線を語っているものであると。ラジオはその時、上・・・ 宮本百合子 「宋慶齢への手紙」
・・・地極の氷の上に国旗を立てるのも、愉快だろうと思って見る。しかしそれにもやはり分業があって、蒸汽機関の火を焚かせられるかも知れないと思うと、enthousiasme の夢が醒めてしまう。 木村は為事が一つ片附いたので、その一括の書類を机の・・・ 森鴎外 「あそび」
出典:青空文庫