・・・ 藁草履を不用にする地下足袋や、流行のパラソルや、大正琴や、水あげポンプを町から積んで。そして村からは、高等小学を出たばかりの、少年や、娘達を、一人も残さず、なめつくすようにその中ぶるの箱の中へ押しこんで。 自動車は、また、八寸置き・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・ つまり私たちの一行は、汚いシャツに色のさめた紺の木綿のズボン、それにゲエトルをだらしなく巻きつけ、地下足袋、蓬髪無帽という姿の父親と、それから、髪は乱れて顔のあちこちに煤がついて、粗末極まるモンペをはいて胸をはだけている母親と、それか・・・ 太宰治 「たずねびと」
・・・同じ東北本線を、重吉は四ヵ月前、北海道弁の二人の看守の間にはさまれ、手錠をかけられ、青い作業服、地下足袋に、自分のトランクを背負って北へ向って行った。空腹で、看守がくれる煎大豆をたべて、水をのんだための下痢に苦しみながら手錠ははずされずに行・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫