・・・に取扱われているそれとは全く反対の生ぬるい、澱んだ、東洋風の諦観に貫かれているのでもなければ、フィリップの作のように、生活への愛に満されているのでもない、ずるずるべったりの売笑婦とその連合いとの生活を描く作者の心境に対してはっきりした軽蔑を・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・ ビュビュ・ドゥ・モンパルナッスより ――売笑婦になじみもあったがね、彼女等が愉快そうにして居るのは、それ、子供が怖ろしさをかくすために喚き散らすだろう、あれと同じなのだよ。 男の荒い掌 男の・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・若い女性の前にひらいているのは、何かの形での売笑的職業でしかない、とさえ云える。どの新聞の広告欄にでものっている婦人の求人欄を一瞥すればよくわかる。そして働く能力と意志のある男たちは、これも、日本のよりやすい賃銀で「使用」しうる産業予備軍と・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・若い愛がまともに達成されず、途中で挫かれ、初々しい真摯さを愚弄されるために、いかほど、人間への信頼を失って肉体と精神との漂流をつづけている人があるだろう。売笑婦の増大、半売笑婦人の増大は、偽善めかした貞操論者の顔の上へはきかけられた資本主義・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・帝政時代のロシアの裁判所の公判廷に、客を殺した一人の売笑婦として、カチューシャがひき出されて来る。貴族の陪審員として、偶然、その日の公判に臨席していたネフリュードフが、シベリア流刑を宣告されたそのカチューシャという売笑婦こそ、むかし若かった・・・ 宮本百合子 「動物愛護デー」
・・・好き嫌いの感情を否定した性的交渉というものは売笑にしかない。坂口氏が性的経験の中にだけ実在を把握するといいながら、縷々とそれについて小説を書かずにはいられない矛盾、撞着が女性を性器においてだけ見るという考えの中にそっくり映っている。そしてそ・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・更に彼はこれらの先天的に犯罪型の頭蓋をもって生れ、何か犯罪をやって現に拘禁されている者の両親は、大抵揃っていず女親だけで、その女親も売笑婦が高率を占め、又その女たちはアルコール中毒にかかっているか、さもなければひどい酒呑みが多いと結論してい・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・ 生めよ、ふやせよと叫ばれた婦人が、きょうは、産児制限をすすめられていることについても、婦人はいいしれない屈辱を感じます。売笑婦、浮浪児が増大するばかりで、六・三制の予算は削られ、校舎が足りないのに、野天で勉強する子供らのよこで、ダンス・・・ 宮本百合子 「婦人大会にお集りの皆様へ」
・・・ ネフリュードフに悪態をつくところ、牢獄でウォツカをあおって売笑婦の自棄の姿を示すとき、山口淑子は、体の線も大きくなげ出して、所謂ヴァンパイアの型を演じる。けれども、最後の場面で、政治犯でシベリアに流刑される人々にまじったカチューシャが・・・ 宮本百合子 「復活」
・・・エロチックであるところの植民地中国売笑婦だ。今日の中国と世界プロレタリア革命との必然的連関ではない。 説明するまでもなくエキゾチックだということは、ある民族の自然的環境、伝統的風俗習慣が一面的に誇示されることを意味する。従って、ニッポン・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学における国際的主題について」
出典:青空文庫