・・・椿岳の画を愛好する少数好事家ですらが丁度朝顔や万年青の変り種を珍らしがると同じ心持で芸術のハイブリッドとしての椿岳の奇の半面を鑑賞したに過ぎなかったのだ。 椿岳の画が俄に管待やされ初して市価を生じたのはマダ漸く十年かそこらである。その市・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・彼女は学士が植えて楽む種々な朝顔の変り種の名前などまでもよく暗記んじていた。「高瀬さんに一つ、私の大事な朝顔を見て頂きましょうか」 と学士が言って、数ある素焼の鉢の中から短く仕立てた「手長」を取出した。学士はそれを庭に向いた縁側のと・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・でも、今の変り種の絵とはどうもちがった腹の底から来る熱が籠っていると思われる。すべての宗教には陰惨なエロチシズムの要素をもっているということをこの絵が暗示しているように思われる。中川一政氏の素朴な静物も今日よく見直してみてもやはり何とも説明・・・ 寺田寅彦 「二科展院展急行瞥見記」
・・・しかし世界の広い学界の中にはまれに変わり種の人間もいて、流行の問題などには目もくれず、自分の思うままに裸の自然に対面して真なるものの探究に没頭する人もあるから、いつの日にかこれらの物理学圏外の物理現象が一躍して中央壇上に幅をきかすことがない・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・市民としても文学者としてもいわば変り種であるローレンスは、そのようなイギリスの中流、上流社会に対して感じるすべての妥協しにくさを、肉体的な感覚の世界へとけこむことで、宇宙的な生命感の中へ意識をとけこませることで、ヒューマニティーの解放を見出・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・ このチフリス市の生活が、ゴーリキイの作家としての生涯の第一歩を開花させたと同時に彼にやや変り種の、しかし何処までも彼らしい結婚生活の発端を与えているのは、まことに興味が深い。二年前にニージュニで知り合ってゴーリキイの全傾倒をひきおこし・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
出典:青空文庫