・・・そして、やがて友情が芽生え、その友情はあらゆる真摯な人間関係がそうであるとおり、互の成長の足どりにつれて幾変転し、試され試し、幾度か脱皮してその人々の人生へもたらされて来るのである。 境遇が同じようだというだけでは、まだ真の友情の生れる・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・の作者が徐々に大衆文学に移って行ったその時代に日本の文学は質的に一変転を経過して、このような個人としての利害に行動した甚兵衛も猶当時の周囲の農民の生活のありようの中でみれば、一個の犠牲であった歴史の現実までを描き出そうという努力を自覚する時・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・カールの仕事の歴史における価値を感じ、一家のゆくてにすべての変転を覚悟しているイエニーは、カールの相談を理解しその処置に賛成しただろう。けれども子供達の将来を思い、いまはもう故郷でなくなった故郷の美しいラインの流れを思いおこした時、イエニー・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・という国内戦時代の動揺、変転する中流家庭生活を主題とした脚本を書いた。モスクワ芸術座が一九二八年から九年の春頃まで上演し一部からひどく受けた。大衆的にも或る程度まで受け入れられたが、段々批判が起って、五ヵ年計画着手とともに、上演目録から削ら・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・しきたりでは、良人と妻とは七つ八つ年が違うのが普通だから、その年ごろの妻たちは大体四十前位の良人をもっているわけで、男の人たちの社会へ向う心持、事業に向う心持、異性に向う心持は、やはり四十歳ごろ一つの変転を経るのが一般らしい。三十三が女の大・・・ 宮本百合子 「小鈴」
・・・徳川の鎖国の方針が七郎兵衛の運命を幾変転させたばかりでなく、今日の日本の動きにかかわり来っていることも、読者はおのずから行間に会得するだろう。 高木氏の歴史小説への態度には、一つの歩み出した積極なものがあると思う。そして、その積極なもの・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・一般に迎えられたばかりでなく、プロレタリア文学の公式主義との中間に立って知識階級の文学を確立しようと欲するインテリゲンツィアの心持をつよく魅した本来の矛盾の姿のまま、時代の波瀾にもまれ、やがて矢継早な変転の道を辿らざるを得なかったのである。・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 幾変転を経て、今日、私たち作家は自身の問題として、教養というものをどう見ているであろうか。これは興味のあることだと思う。文学的教養はこの二三年来実に急速に、容赦なく低下しつつあって、而も、その低下の現代の特質は、作家自身その低下をちっ・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・に発育しつつある文明の急速な変転を知り、理解するには余り頑迷でございます。彼を自殺させる女性観は、米国婦人の持つ総ての積極と自動的生活との前にしどろもどろな咆吼を致します。女性に対する誤った態度は、彼に触れる総ての女性から孤立させられますで・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ この一年二年は、時間だけで計られない内容をもって社会生活が変転した。変転する社会の相貌に応じて、文学の分野の謂わばモードも転々したのであるが、今日ではそのような文学の形をとった上波が、つまりは文学というより寧ろ文学によって扱われる・・・ 宮本百合子 「生産文学の問題」
出典:青空文庫