・・・筒の外側はアルミニウムペイントで御化粧をしてあるが、金属製だかどうだか見ただけでは分らない。昔は花火の筒と云えば、木筒に竹のたがを幾重となく鉢巻きしたのを使ったものだが、さすがに今ではもうそんなものは使わないと見える。第一その筒の傍に立って・・・ 寺田寅彦 「雑記(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・門の鉄扉の外側に子守が二、三人立って門内の露人の幼児と何か言葉のやりとりをしていると、玄関から逞しいロシア婦人が出て来て、逞しいむき出しの腕でその幼児を軽々と引っかかえて引込んで行った。ソビエトの幼児が函館の町っ児の感化に染まることを恐れる・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・ 煙の柱の外側の膚はコーリフラワー形に細かい凹凸を刻まれていて内部の擾乱渦動の劇烈なことを示している。そうして、従来見た火山の噴煙と比べて著しい特徴と思われたのは噴煙の色がただの黒灰色でなくて、その上にかなり顕著なたとえば煉瓦の色のよう・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・室の後方の扉があいている外側には、このへんの貧民がいっぱい立って騒々しく話している。机に並べられた子供の中には延び上がって後ろの群集を珍しそうにながめるのもあります。するとシュエスターが立って行って、頭をパタパタとたたいて向こうむきにすわら・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・その反対に、茶わんのまん中のほうでは逆に上のほうへのぼって、表面からは外側に向かって流れる、だいたいそういうふうな循環が起こります。よく理科の書物なぞにある、ビーカーの底をアルコール・ランプで熱したときの水の流れと同じようなものになるわけで・・・ 寺田寅彦 「茶わんの湯」
・・・スリートとして挙げられているものの中には、以上のようなものの外に雪片のつながったのが一度溶けかけてまた凍った事を明示するようなものや、氷球の一方から雪の結晶が角を出しているのや、球の外側だけが氷で内部は水のままでいるのもある。 次に雨氷・・・ 寺田寅彦 「凍雨と雨氷」
・・・云わば、彼の神経は彼の体の外側へ飛び出して、彼の眼を透して、彼の体の中を覗いているのだった。 彼は堪えられなかった。苦しみ! と云うようなものではなかった。「魂」が飛び出そうとしているんだ。 子供と一緒に自分の命を捨てる、難産のよう・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・夏に銅の壺に水を入れ壺の外側を水でぬらしたきれで固くつつんでおくならばきっとそれは冷えるのだ。なんべんもきれをとりかえるとしまいにはまるで氷のようにさえなる。このように水は物をつめたくする。また水はものをしめらすのだ。それから水はいつでも低・・・ 宮沢賢治 「学者アラムハラドの見た着物」
・・・林の樹が倒れるなんかそれは林の持主が悪いんだよ。林を伐るときはね、よく一年中の強い風向を考えてその風下の方からだんだん伐って行くんだよ。林の外側の木は強いけれども中の方の木はせいばかり高くて弱いからよくそんなことも気をつけなけぁいけないんだ・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・もう外側などとっくに無くなり、弾機と歯車だけ字面の裏にくっついている、それを動かそうとしているのだ。陽子は少年らしい色白な頸窩や、根気よい指先を見下しながら、内心の思いに捕われていた。その朝彼女の実家から手紙を貰った。純夫が陽子の離籍を承諾・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
出典:青空文庫