・・・かようにして天地間の万象は複雑きわまる網目によって無限多義的に連関している。甲から乙に移る連絡道路だけでも無限に多数に存する。それらの通路の中には国道もあり間道もあり、また人々によって通い慣れた道と、そうでないのとがある。それで今甲の影像の・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・もちろん、数学の公理や論理はきわめて簡単明瞭であり、使用される概念も明確に制定されているに反して、言語による思考の場合では、これらのすべてのものが複雑に多義的であるから、一見同様な前提から多種多様な結論が生まれ出るように見える。しかし実際の・・・ 寺田寅彦 「数学と語学」
・・・従ってその実験の結果もまた多義的であって、それの価値判断も困難である。しかし極端な場合を比較して見れば作者の「方則」や方法の差別は容易に分る。普通に批評家がある作物を見て、不自然であるとか、そうでないとかいうのはすなわち如上の意味においてで・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
・・・句の外観上の表面に現われた甲の曲線から乙の曲線に移る間に通過するその径路は、実は幾段にも重畳した多様な層の間にほとんど無限に多義的な曲線を描く可能性をもっているのである。そうして連句というものの独自なおもしろみはまさにこの複雑な自由さにかか・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・なる語の多義に注意せざるを得ない。内なる真実の表現を意味する写実と、自然物に触発せられて内なる真実を表現することを意味する写実と、ただ単に自然の外形をのみ写すことを意味する写実とは、同語にしてはなはだしく意味を異にするのである。岸田君が第二・・・ 和辻哲郎 「『劉生画集及芸術観』について」
出典:青空文庫