・・・それを発見した夜警中の守衛は単身彼等を逮捕しようとした。ところが烈しい格闘の末、あべこべに海へ抛りこまれた。守衛は濡れ鼠になりながら、やっと岸へ這い上った。が、勿論盗人の舟はその間にもう沖の闇へ姿を隠していたのである。「大浦と云う守衛で・・・ 芥川竜之介 「保吉の手帳から」
・・・が買って来たものの、屠殺の方法が判らんちゅう訳で、首の静脈を切れちゅう者もあれば眉間を棍棒で撲るとええちゅう訳で、夜更けの焼跡に引き出した件の牛を囲んで隣組一同が、そのウ、わいわい大騒ぎしている所へ、夜警の巡査が通り掛って一同をひっくくって・・・ 織田作之助 「世相」
・・・ 夜警で一緒になった人で地震当時前橋に行っていた人の話によると、一日の夜の東京の火事は丁度火柱のように見えたので大島の噴火でないかという噂があったそうである。 寺田寅彦 「震災日記より」
・・・そういう時にまたよく程近い刑務所の構内でどことなく夜警の拍子木を打つ音が響いていた。そうして河向いの高い塀の曲り角のところの内側に塔のような絞首台の建物の屋根が少し見えて、その上には巨杉に蔽われた城山の真暗なシルエットが銀砂を散らした星空に・・・ 寺田寅彦 「追憶の冬夜」
・・・この間九州から出て来ましてね、今このさむいのに、代々木の方で夜警をやって居るのですよ。夜中は震えますってさ。そりゃあひどく震うんですって。余り震えるからって、うちへ来なさいましたから古洋服だの靴まで貰ってよろこんでかえりなさいましたよ。偉い・・・ 宮本百合子 「一九二三年冬」
出典:青空文庫