・・・現在日本のジャーナリズム文学を大幅に流れているデカダンティズムやエロティシズムの傾向とその作家たちは、けっして日本の現代文学の代表として推される文学的価値はもっていない。「横になった令嬢」を外国語に翻訳させたいと思う日本人はいない。だが、国・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・石坂氏の作品は、作家としての意図では芸術的であろうとしたことで、純文学にふれつつ、作家的本質の或る通俗な持ちものでいつしか純文学が通俗作品へ大幅にすべり込むに到った日本文学の或る歴史の道を拓いている点が、今日顧みられるのである。石川氏の現在・・・ 宮本百合子 「文学と地方性」
・・・ 生活必需品に対してそういう手当をする政府は、つい先頃、国鉄運賃大幅値上げをした。省線・都電の運賃値上げをして、地域によっては出もしないガス六倍、水道十二倍にすると云った。まさか、出ないガスと水道だから上ったところでメートル代だけです、・・・ 宮本百合子 「モラトリアム質疑」
・・・ 疎開、転入制限、これらも大幅に日本の家庭を破壊した。経済事情の極度の不安定。これも今日の離婚の動機をなす最も大きい理由である。これらの諸理由が離婚の動機になるほど、これまでの結婚というものが、日本では、つよい愛に立っての結合ではなくて・・・ 宮本百合子 「離婚について」
・・・ アメリカでも、ドイツでも、イタリーでも第二次の世界大戦においては大幅に婦人の力が動員された。特にイタリー、ドイツにおいては日本と同様に侵略戦争を始めた立場から婦人の労働というものは全く悲劇的に、人民生活の破綻のために追立てられたのであ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・座敷は極めて殺風景に出来ていて、床の間にはいかがわしい文晁の大幅が掛けてある。肥満した、赤ら顔の、八字髭の濃い主人を始として、客の傍にも一々毒々しい緑色の切れを張った脇息が置いてある。杯盤の世話を焼いているのは、色の蒼い、髪の薄い、目が好く・・・ 森鴎外 「鼠坂」
出典:青空文庫