・・・小田巻草千日草天竺牡丹と各々手にとり別けて出かける。柿の木の下から背戸へ抜け槇屏の裏門を出ると松林である。桃畑梨畑の間をゆくと僅の田がある。その先の松林の片隅に雑木の森があって数多の墓が見える。戸村家の墓地は冬青四五本を中心として六坪許りを・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・道ばたの家に天竺牡丹がある、立ち留って見る。霧島が咲いてる、立ち留って見る。西洋草花がある、また立ち留って見る。お千代は苦も荷もなく暢気だ。「おとよさん、これ見たえま、おとよさんてば、このきれいな花見たえま」 お千代は花さえ見れば、・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・った、軒の下は今掃いた許りに塵一つ見えない、家は柱も敷居も怪しくかしげては居るけれど、表手も裏も障子を明放して、畳の上を風が滑ってるように涼しい、表手の往来から、裏庭の茄子や南瓜の花も見え、鶏頭鳳仙花天竺牡丹の花などが背高く咲いてるのが見え・・・ 伊藤左千夫 「姪子」
・・・ ダリヤは天竺牡丹といわれ稀に見るものとして珍重された。それはコスモスの流行よりも年代はずっと早かったであろう。チュリップ、ヒヤシンス、ベコニヤなどもダリヤと同じく珍奇なる異草として尊まれていたが、いつか普及せられてコスモスの流行るころ・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
出典:青空文庫