・・・科学は全く受動的に非科学の奴僕となっているためにその能力を発揮することができず、そのために無能視されてしかられてばかりいるのではないかという気もする。いったい二十世紀の文明国と名乗る国がらからすれば、内閣に一人や二人のしかるべき科学大臣がい・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ わが断腸亭奴僕次第に去り園丁来る事また稀なれば、庭樹徒に繁茂して軒を蔽い苔は階を埋め草は墻を没す。年々鳥雀昆虫の多くなり行くこと気味わるきばかりなり。夕立おそい来る時窓によって眺むれば、日頃は人をも恐れぬ小禽の樹間に逃惑うさまいと興あ・・・ 永井荷風 「夕立」
・・・作家は、社会的な人間としての自分を自身にとり戻して、そのことで観念の奴僕ではない人間精神の積極的な可能を自身に知らなければならないであろう。例えば長篇小説の非文学的な状況の打破も、芸術文学としての長篇の在りようにおいて見きわめられなければな・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・と呼ぶのは、決して、奴僕が雇主を指して云うような感情を持ってはいない。丁度、英語を喋る国の女が、自分の良人を第三者に対して話す時には、ミスター・誰々と姓を呼ぶ、それと共通な心理なのだと抗議を申し込むでしょう。 言語、習俗が著しく異った場・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・この土地で奴僕の締める浅葱の前掛を締めている。男は響の好い、節奏のはっきりしたデネマルク語で、もし靴が一足間違ってはいないかと問うた。 果して己は間違った靴を一足受け取っていた。男は自分の過を謝した。 その時己はこの男の名を問うたが・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
出典:青空文庫