・・・「やっと命を助けて頂いた御主人の大恩さえ忘れるとは怪しからぬ奴等でございます。」 犬も桃太郎の渋面を見ると、口惜しそうにいつも唸ったものである。 その間も寂しい鬼が島の磯には、美しい熱帯の月明りを浴びた鬼の若者が五六人、鬼が島の・・・ 芥川竜之介 「桃太郎」
・・・ と声を密めながら、「ここいらは廓外で、お物見下のような処だから、いや遣手だわ、新造だわ、その妹だわ、破落戸の兄貴だわ、口入宿だわ、慶庵だわ、中にゃあお前勾引をしかねねえような奴等が出入をすることがあるからの、飛んでもねえ口に乗せら・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・――色気も娑婆気も沢山な奴等が、たかが暑いくらいで、そんな状をするのではありません。実はまるで衣類がない。――これが寒中だと、とうの昔凍え死んで、こんな口を利くものは、貴方がたの前に消えてしまっていたんでしょうね。 男はまだしも、婦もそ・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・三の烏 あれほどのものを、持運びから、始末まで、俺たちが、この黒い翼で人間の目から蔽うて手伝うとは悟り得ず、薄の中に隠したつもりの、彼奴等の甘さが堪らん。が、俺たちの為す処は、退いて見ると、如法これ下女下男の所為だ。天が下に何と烏ともあ・・・ 泉鏡花 「紅玉」
・・・犬が三頭――三疋とも言わないで、姐さんが奴等の口うつしに言うらしい、その三頭も癪に障った。なにしろ、私の画が突刎ねられたように口惜かった。嫉妬だ、そねみだ、自棄なんです。――私は鷭になったんだ。――鷭が命乞いに来た、と思って堪えてくれ、お澄・・・ 泉鏡花 「鷭狩」
・・・随分生皮も剥れよう、傷を負うた脚を火炙にもされよう……それしきは未な事、こういう事にかけては頗る思付の好い渠奴等の事、如何な事をするか知たものでない。渠奴等の手に掛って弄殺しにされようより、此処でこうして死だ方が寧そ勝か。とはいうものの、も・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・「やはり先生避暑にでも行ってるのだろうが、何と云っても彼奴等はいゝ生活をしているな」彼は羨ましいような、また憎くもあるような、結局芸術とか思想とか云ってても自分の生活なんて実に惨めで下らんもんだというような気がされて、彼は歩みを緩めて、コン・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・「唯だ東京の奴等を言ったのサ、名利に汲々としているその醜態は何だ! 馬鹿野郎! 乃公を見ろ! という心持サ」と上村もまた真面目で註解を加えた。「それから道行は抜にして、ともかく無事に北海道は札幌へ着いた、馬鈴薯の本場へ着いた。そして・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・「俺等がやめなきゃ、いつまでたったってやまるもんか。奴等は、勲章を貰うために、どこまでも俺等をこき使って殺してしまうんだ! おい、やめよう、やめよう。引き上げよう!」 吉原は喧嘩をするように激していた。 彼等は、戦争には、あきて・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・村の奴等が、どう云おうがかもうたこっちゃない。庄屋の旦那に銭を出して貰うんじゃなし、俺が、銭を出して、俺の子供を学校へやるのに、誰に気兼ねすることがあるかい。」 おきのは、叔父の話をきいたり、村の人々の皮肉をきいたりすると、息子を学校へ・・・ 黒島伝治 「電報」
出典:青空文庫