・・・ある仏蘭西のジェスウイットによれば、天性奸智に富んだ釈迦は、支那各地を遊歴しながら、阿弥陀と称する仏の道を説いた。その後また日本の国へも、やはり同じ道を教に来た。釈迦の説いた教によれば、我々人間の霊魂は、その罪の軽重深浅に従い、あるいは小鳥・・・ 芥川竜之介 「おぎん」
・・・それはとにかくこの善良愛すべき社長殿は奸智にたけた弁護士のペテンにかけられて登場し、そうして気の毒千万にも傍聴席の妻君の面前で、曝露されぬ約束の秘事を曝露され、それを聞いてたけり立ち悶絶して場外にかつぎ出されるクサンチッペ英太郎君のあとを追・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・人間の可憐さ、狡猾さ、奸智、無邪気さ、あらゆる強烈な欲望が描かれていて、そこに登場する婦人も、決して一様ではない。マクベス夫人のようにおそろしい女から、リア王の三人娘のような諸性格、ロミオとの悲しい愛に命をおとしたジュリエットのような姫から・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ロマンティック時代の小説のように、これもまた一種の善玉悪玉である奸智に長けた心、ヒステリックな神経的行動の誇張の中にないことも明らかである。 以前プロレタリア作家の特等席ということが言われたことがあった。この言葉は左翼運動の他の場面に働・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
出典:青空文庫