・・・外面如菩薩内心如夜叉などいう文句は耳にたこのできるほど聞かされまして、なんでも若い女と見たら鬼か蛇のように思うがよい、親切らしいことを女が言うのは皆な欺ますので、うかとその口に乗ろうものならすぐ大難に罹りますぞよというのが母の口癖でありまし・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・登竜門というものは、ひとを市場へ一直線に送りこむ外面如菩薩の地獄の門だ。けれども僕は着飾った苺の悲しみを知っている。そうしてこのごろ、それを尊く思いはじめた。僕は逃げない。連れて行くところまでは行ってみる」口を曲げて苦しそうに笑った。「その・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・犬は、私にそのような、外面如菩薩、内心如夜叉的の奸佞の害心があるとも知らず、どこまでもついてくる。練兵場をぐるりと一廻りして、私はやはり犬に慕われながら帰途についた。家へ帰りつくまでには、背後の犬もどこかへ雲散霧消しているのが、これまでの、・・・ 太宰治 「畜犬談」
出典:青空文庫