・・・ 尤も伝来の遺習が脱け切れなかった為めでもあるが、一つには職業としての文学の存立が依然として難かしいのが有力なる大原因となっておる。今より二十何年前にはイクラ文人が努力しても、文人としての収入は智力上遥に劣ってる労働階級にすら及ばないゆ・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・それで九州人の自然観や東北人の自然観といったようなものもそれぞれ立派に存立しうるわけである。しかし、ここでは、それらの地方的特性を総括しまた要約した「一般的日本人」の「要約した日本」の自然観を考察せよというのが私に与えられた問題であろうと思・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ 以上私は俳句の形式の必然性についてかなりくどくどしく述べて来たようであるが、そうしたわけは私の考えでは俳句の精神といったようなものは俳句のこの形式を離れては存立し難いものと考えるからである。その精神とはどんなものか、それについては章を・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・をその存立要件として成立するものである。そうして音楽の場合の一つ一つの音に相応するものがいろいろの物象や感覚の心像、またそれに付帯し纏綿する情緒である。これらの要素が相次ぎ相重なって律動的旋律的和声的に進行するものが俳諧連句である。従ってこ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・手に取られない、微かなような外観のものではあるが、底にはかのようにが儼乎として存立している。人間は飽くまでも義務があるかのように行わなくてはならない。僕はそう行って行く積りだ。人間が猿から出来たと云うのは、あれは事実問題で、事実として証明し・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・『いでゆ』は『いでゆ』として存立の意義があるだろう。しかしこの画によって日本画に新しい領土が切り開かれなかったことは、悲しむべきではなかろうか。もしこの画が現在の描き方で行けるところまで行き切ったものとすれば、ここに画家の態度を変更する必要・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫