・・・福引の景品に、能代塗の箸は、孫子の代まで禁物だと、しみじみ悟ったのはこの時である。 籤ができあがると、原君と依田君とが、各室をまわる労をとった。少したつと、もう大ぜい籤を持った人々がやってくる。事務室の向かって右の入口から入れて、ふだん・・・ 芥川竜之介 「水の三日」
・・・熱気を吐きつつ、思わず腕を擦りしが、四谷組合と記したる煤け提灯の蝋燭を今継ぎ足して、力なげに梶棒を取り上ぐる老車夫の風采を見て、壮佼は打ち悄るるまでに哀れを催し、「そうして爺さん稼人はおめえばかりか、孫子はねえのかい」 優しく謂われて、・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・ 永久の貧乏 百姓達が、お前達は、いつまでたっても、──孫子の代になっても貧乏するばかりで、決して頭は上らない。と誰れかに云われる。 彼等は、それに対して返事をするすべを知らない。それは事実である。彼等は二十年、或は・・・ 黒島伝治 「選挙漫談」
・・・銭を使うたら、それッきりじゃが、土地は孫子の代にまで残るもんじゃせに。」 親爺は、朴訥で、真面目だった。「俺ら、田地を買うて呉れたって、いらん。」「われ、いらにゃ、虹吉が戻ってくりゃ、虹吉にやるがな。」「兄やんが、戻って来る・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・鈴木文史朗にも妻子があり孫子もあるだろう。日本にのこっている封建的感情は、ハイ・ボールの一杯機嫌で気焔をあげるにしても、すぐ生殺与奪の権をほしいままに握った気分になるところが、いかにもおそろしいことである。この種の人々は、どこの国の言葉が喋・・・ 宮本百合子 「鬼畜の言葉」
出典:青空文庫