・・・ここは会社と言っても、営業部、銀行部、それぞれあって、先ず官省のような大組織。外国文書の飜訳、それが彼の担当する日々の勤務であった。足を洗おう、早く――この思想は近頃になって殊に烈しく彼の胸中を往来する。その為に深夜までも思い耽る、朝も遅く・・・ 島崎藤村 「並木」
・・・ 火はとうとうよく二日一ぱいもえつづき、ところによっては三日にとび火で焼けはじめた部分もあります。官省、学校、病院、会社、銀行、大商店、寺院、劇場なぞ、焼失したすべてを数え上げれば大変です。中でも五〇万冊の本をすっかり焼いた帝国大学図書・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・ 従弟のような経験のある人は、地図をひろげて大体重要工業地帯と諸官省の中心地帯とをさした。地図の上で指されるそれらの地区は本郷区のぐるりのどこかに隣接してはいてもうちのある林町界隈までは距っていた。心配は直接本郷あたりが襲撃されることで・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・これは成程今までの諸官省の据置月給のひどさから見れば、一応適正な処置である。しかし家計簿と最低賃金四百五十円也というものを睨み合せて見ると、不思議なことが起る。国鉄の非常識な値上、公定価格の全般的吊上げが発表されている。今日、疎開している人・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫