・・・個人主義は人を目標として向背を決する前に、まず理非を明らめて、去就を定めるのだから、ある場合にはたった一人ぼっちになって、淋しい心持がするのです。それはそのはずです。槙雑木でも束になっていれば心丈夫ですから。 それからもう一つ誤解を防ぐ・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・ 物事の道理をちゃんちゃんとつけて事を定めるそこの主婦が、ふみつけにされた事に対してどう思って居るかと思うと、どうしても、厚かましく、 どうぞ、これこれでございますから月々いくらかずつ出して下さいますまいか。とは云えない・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・九州中を求めて歩いても、外に定める場所はなかりそうに思える。大分県は私の見ただけのところでは小規模にちんまり安住しすぎ、鹿児島は明るく、人の気質が篤く覇気はあるらしいが、既成の或るものがある。日向にだけは、男神が甦生しても大して意外でない悠・・・ 宮本百合子 「九州の東海岸」
・・・けれども、或機関があると云う事は、只其のみで齎らさるべき結果の価値を定めるものではございません。幾何の大学が在り、幾種の専門学校があったとしても、若し其に依って開発されて行くべき女性が、彼女等の価値を認められて居なかったら如何うでございまし・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・一都市の政治的、商業的問題を本国と取定める場合には、誰か、彼等の信任する一人を、あらゆる舌、あらゆる心の代表として選出しなければならない。共和政体は、合衆国が独立を宣言するより以前から、その胚種を持っていたのではないでしょうか。 困難に・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・第一の女 私はお二人のどちらがおよろしいのか又どちらが御悪くていらっしゃるのだかそんな事を定める力はございませんけど、法王様がお怒り遊ばした――と云う只そればかりがもうたまらないほど恐ろしいんでございますわ。 法王様がお怒り遊ばした・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・自分達が主であると頭では分って居るのだが、いざ家でも定めるとなると、家そのもののよさ、わるさが、却って、自分達を圧するような傾向があったのである。 台所は遣って呉れる人があると云う安心も、大きにあずかって力あることだろう。 瓦斯があ・・・ 宮本百合子 「又、家」
・・・どうも聞き定めることが出来ない。 僕にお金が話す時、「どうしても方角がしっかり分からなかったと云うのが不思議じゃありませんか」と云ったが、僕は格別不思議にも思わない。聴くと云うことは空間的感覚ではないからである。それを強いて空間的感覚に・・・ 森鴎外 「心中」
・・・告白として露骨であることが製作の高い価値を定めると思ってはいけない。けれどもまた告白が不純である所には芸術の真実は栄えない。私の苦しむのは真に嘘をまじえない告白の困難である。この困難に打ち克った時には人はかなり鋭い心理家になっているだろう。・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・彼の職務は或る作品がいかなる芸術的価値を持つかを定めることではなく、ただそれが公開される場合に公衆に対していかなる影響を及ぼすかを精確に判定し、その影響が社会の秩序を紊乱し善良な風俗を壊乱するようなものであった場合に、その公開を禁止すること・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫