・・・科目は教師が黒板に書いて教授するのを、筆記帳へ書取って、事は足りたのであるが、皆が持ってるから欲しくてならぬ。定価がその時金八十銭と、覚えている。 七 親父はその晩、一合の酒も飲まないで、燈火の赤黒い、火屋の亀裂・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・このウ細い方一挺がア、定価は五銭のウ処ウ、特別のウ割引イでエ、粗のと二ツ一所に、名倉の欠を添えまして、三銭、三銭でエ差上げますウ、剪刀、剃刀磨にイ、一度ウ磨がせましても、二銭とウ三銭とは右から左イ……」 と賽の目に切った紙片を、膝にも敷・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・今度の新しい叢書は著作者の顔触れも広く取り入れてあるもので、その中には私の先輩の名も見え、私の友だちの名も見えるが、菊版三段組み、六号活字、総振り仮名付きで、一冊三四百ぺージもあるものを思い切った安い定価で予約応募者にわかとうというのであっ・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・媚びず怒らず詐らず、しかも鷹揚に食品定価の差等について説明する、一方ではあっさりとタオルの手落ちを謝しているようであった。 しかし悲しいことにはこのたぶん七十歳に遠くはないと思われる老人には今日が一九三五年であることの自覚が鮮明でないら・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・そうして月々十一円ずつ郷里からもらっている学費のうちからひどい工面をして定価九円のヴァイオリンを買うに至るまでのいきさつがあったのであるが、これは先生に関係のない余談であるからここには略する。とにかく自分がこの楽器をいじるようになったそもそ・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・闇の紙で出した部数が多ければ多いほど、これだけ無理をしているのだからと、次期の割当を増している出版協会の割当方法も奇妙だし、きのうの新聞に出たように、原稿料を基準に本の定価をきめる、という物価庁の意見も腑におちない。文化現象としてよりもイン・・・ 宮本百合子 「豪華版」
・・・あらゆる形で大衆課税がとりたてられ、たとえ所得税の税率がいくらか引き下げられたとしても、汽車賃の二倍半までの増額、公定価格の七割ほどの引上げ、通信料の四倍、煙草の二割から八割の値上げは、あらゆる家計を破綻させている。とくに本年度の悪質大衆課・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
出典:青空文庫