・・・近ごろいろいろの無定形無季題短詩の試みがあるのは多くはこの錯覚によるのではないかと想像される。しかし人間と化合した有機的の「春雨」「秋風」はその言葉の外形は不変であっても、その内容は人間社会とともに進化の歩みを止めることはない。人間とその社・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・葉子自身が母の心というような通俗的な定形に従って解決していたのであろうか。作者は「或る女」の広告として「畏れる事なく醜にも邪にもぶつかって見よう。その底には何があるか。若しその底に何もなかったら人生の可能は否定されなければならない。私は無力・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・その社会的共感の基礎として集団的人間が予想され、今日のわれわれの合理性の声として、人間性を内容づける階級性も、当然思惟の領域に入っているのであるが、それを性急に従来の定形に準じて方向づけてしまっても、観念上の満足にとどまって、現代ヒューマニ・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
出典:青空文庫