・・・反対に、或る種の若い女のひとは結婚の現実性を実利性ととりちがえ、その実利性をも一番低級な物質の面に根拠をおき、結婚は事務と云い、商取引というように云うが、今流行の比喩で云えば、平和産業であるにちがいないそういう商取引が、果して、今日の現実で・・・ 宮本百合子 「これから結婚する人の心持」
・・・作者藤村氏が、抒情的な粘着力をもって縷々切々と、この主人公とそれをめぐる一団の人々の情感を語りつつ、時代の力、実利と人間理想とが歴史の波間でいかに猛烈にかみ合い、理想の敗北が箇人的生涯の悲惨として現れるかということを一般人生の姿として冷たく・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・女性が常識のなかで実利的にばかりなってしまったり、固着した低俗に陥ってしまったりしては悲しいと思う。因幡の兎のようにされたわたしの同級の可哀そうな插話にしろ、もしあの時代の令嬢たちが、卒業すればあとにはお嫁に行くことしか目標がないような教育・・・ 宮本百合子 「歳月」
・・・今日、彼等の社会を風靡していると云われる物質主義、精力主義、並に実利主義は、未開の而も生産力の尽くるところを知らない自然に向って、祖先が、本能的に刺戟された一方面の発育であると云えるのではありませんでしょうか。 源泉は遠い遠い彼方迄遡る・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・自覚ある労働者は常に遅れた労働者の自然発生的なリアリズム――現実主義、実利主義と闘っています。彼らの経済主義と闘っています。 ここで私は非常に面白い矛盾がさき程からの討論の中に含まれていたと思うのです。発言者は、殆ど全部新日本文学会の活・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・然し、それには一つ妙な、父親の地方人らしい、実利的な条件がついた。二年間だけ好きにさせてやるから、その間にものになれと云うのである。 喜び勇んだバルザックはアルスナール図書館近くの屋根裏に一部屋をかり、寝台と机と二三脚の椅子と、餓え死し・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・の嫌悪者、実利主義者である。 理想家ルースは左翼のリーダアになったかもしれずY・M・C・Aのとび切り忠実な書記にでもなりかねないが、一面の極めてつよい実利性のために、現実においてルースは卑俗な一般的見解の水準での成功に屈伏し、金をつくり・・・ 宮本百合子 「微妙な人間的交錯」
・・・ アメリカの実利性、人間精神がより高く深く真理をとらえようとする懐疑を忘却して自足しているアメリカの精神麻痺へのプロテストとして、アンダスンは「暗い青春」の主人公の家出、破婚、流浪の本質を描いているのだけれども、フランス文学にごく近接し・・・ 宮本百合子 「文学の大陸的性格について」
・・・彼らに内在するあらゆる自然発生的中流的素質は、老大国の首府に暮すうち数等政治的年功を積み、実利主義によってきたえられたイギリス中流的秩序によって言語とともに整理される。英国人の他人種に馴れる馴れ方はフランス人の馴れ方と違う。英国人が或他人種・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫