・・・十八九歳の二人で、実直な勤労青年であることが一目で見とれる人々であった。その二つの若い日本の青年の面に浮んでいたその時の表情を、わたしは忘れ難く感じている。どちらかと云えば単純なその二つの顔は、彼等が言葉にも表現し得ない程、複雑な、云うに云・・・ 宮本百合子 「その源」
・・・という問に対し 極めて実直な奴隷のように「僕はロシアを信じている」と答えるのである。 なぜなら ロシア、それは彼の避難所であり、彼の救済だからである。ここに来て彼の言葉はもはや分裂ではなくて 信条になる。神は彼に対して沈黙してしまった。・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・インフレーションで悲鳴をあげているのは、実直な勤労生活者であり、モラトリアムで大いにあわてるのは「資本主義のからくり」に精通しないその犠牲者である。深海に波立たずいつもしーんとして重く悠々たるのは、金庫の中にその生活を深く沈めている人々であ・・・ 宮本百合子 「人間の道義」
・・・こういう実直な、いわれるままに「聖戦」を信じて夫をおくり息子たちをおくり、その死に耐えた人々の誰が、何に便乗することができたろう。はじめの頃は、自分たちの住んでいる街や村のまわりにも、何軒かは便乗景気のところもあって、何処やら努力のつぐのい・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・体は丈夫で、渡者の仲間には珍らしい、実直なものだと云うことが、一目見て分かった。 九郎右衛門が会って話をして見て、すぐに宇平の家来に召し抱えることにした。 九郎右衛門、宇平、文吉の三人は二十九日に菩提所遍立寺から出立することに極・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫