・・・東海道本線では有名で、幾とおりものプラットフォームには、殆どいつも長い客車、貨物列車のつながりが出入りしているのに、駅じゅうに赤帽がたった一人しかいない。しかもその赤帽である若い男は、何と呑気な生れつきであろうか。もう一つの特色として、この・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・軽井沢近くまではどうか斯うが無事に来たが、沓かけ駅から一つ手前で、窓から小用をした人が、客車の下に足を見つけ、多分バク弾を持った朝鮮人がかくれて居るのだろうとさわぎ出す。前日軽井沢で汽車をテンプクさせようとした鮮人が捕ったところなので皆、さ・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・過ぎて行く貨車の一つ一つ、客車の窓の一つ一つが見える。どの時間に通る列車でも客車は一杯だが、不思議なことに、満員乍らまだ十分客車に入れる予地があるのにステップのところや汽罐車の石炭の上にのっている人々がある。そういうところなら結局こまなくて・・・ 宮本百合子 「無題(十二)」
出典:青空文庫