・・・ それらの子供たちが、一年東京に働いた後に健康を害する率の多いことは、既に一般から重大な関心をもって視られているし、工場や雇われ先での明け暮れに稚い若い心の糧の欠乏していることの害悪も、やはり人々を憂えさせている事実である。 昭和十・・・ 宮本百合子 「国民学校への過程」
・・・ これらの作家は同時に文学の進展を害するものとして文学青年の存在を否定しているのであるが、文学の現状を見れば、そこには大きい実際の矛盾がある。この三四年来、芥川賞、直木賞、文芸懇話会賞等々夥しい賞が懸けられ新人を招いている。ところで今日・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・そうだとすれば、「公安を害する」というおそろしい言葉が犯して来た罪業の数々を、わたしたち文学者は忘れることが出来ない。必ず、それは悪用される。現在の日本の事情では、害あって益ない出版取しまりの法律などをつくることはしないという出版綱領委員会・・・ 宮本百合子 「「チャタレー夫人の恋人」の起訴につよく抗議する」
・・・ このことがどんなに危険であり、民主主義文学の素直な理論的発展を害するやり方であるかということは、一九三三年にもとのプロレタリア作家同盟が犯した誤りを思いおこせばよく分ります。誰が治安維持法に苦しめられなかったでしょう。怖くない者は一人・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・鹿地氏の文章で、何故今日まで中国文学が特にその理論的な面、批評の面で全く薄弱であるかという理由を学ぶすべての読者は、社会生活の複雑な旧い羈絆が文学を害することの夥しいことに驚かざるを得ないだろうと思う。中国の作家が封建的な重荷とたたかい時を・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・ 日本でもラジオは文学に反映しているが、最近東朝が紙面の品位を害するという理由で掲載を打ちきったとつたえられる永井荷風氏の「東綺譚」は、恐らく今日の世界の文学に類のないラジオと一人の人間との関係を発端としていると思う。作者永井荷風は、夏・・・ 宮本百合子 「「ラジオ黄金時代」の底潮」
・・・てではなく、人間女として婦人がこの社会生活に関っている心理的な面を漱石はとらえ、このことでは、両性の関係のみかたが一歩進んだのであったが、漱石は、日本の結婚生活というものが一般に女の自然的性格の発展を害するものとして見ている。彼の思想は、当・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
・・・ なんぞと一しょになって、共産主義の宣伝をしても、Freiligrath, Herwegh, Gutzkow の三人が Marx と一しょになって、社会主義の雑誌に物を書いても、文芸史家は作品の価値を害するとは認めない。 学問だって同じ・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
出典:青空文庫